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第四話 社風
資格試験まで後1ヶ月。
あたしも勇司も自室にこもり追い込みをしている。
夜中まで起きていて朝早く起きる。睡眠時間はあまりとっていない。
東京まで来て、秩父にいた頃と大して変わらない生活をしているのだから、何しに来たんだかわからなくなる。
朝早く起きるのは勇司と決めていて、1日の始まりは一緒に過ごそうと言うのである。眠かったら昼寝でも良いから寝る事にした。
今朝も時間通りに起きて顔を洗いリビングに顔を出すと、勇司が食卓でコーヒーを飲んでいた。
「おはよう」
「おはよう。今日は一緒に食堂に行こうよ」
「そうだな。たまには良いか」
ここでは呼べば家政婦が来て料理をしてくれる。有難いのだけれど気が引けてしまう。
あたしと勇司は手を繋いで食堂に向かった。
食堂は二階にある。
役員エレベーターで一階に降りて一般用エレベーターに乗り換えた。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます」
何人かと挨拶をして2階で降りると一般の社員も利用していた。
「「「「おはようございます」」」」
「おはよう」
「おはようございます」
忘れてはいけない。
あたしは一部を除いて世間では南家の養女になっている。将来の役員候補に上がっているのかもしれない。
すれ違う社員も立ち止まって挨拶をして、食堂にいる社員は起立して挨拶、あたしと勇司が席に着くまで礼をしたままでいる。
「ねぇ、休んでもらっても良いんじゃないの」
あたしは小声で勇司に言うが、勇司はその必要はないと言う。
小さい頃からこう言う環境で育っていると考え方が違うのかもしれないと感じてしまう。
「あの!みなさんもう食事して下さい!」
「おい、みかん。勝手なことするな!」
「良いじゃない。お母さんならそうしていたと思う」
「まあ、良いけど」
勇司はあたしに弱いし、お母さんにはもっと弱い。
それでも社員は礼をしたままでいる。
はぁ。軍隊ではないんだから。
その時、木城さんが食堂に入ってきた。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよう」
木城さんはあたしの困り果てた顔を見て理由を聞いてきた。
「社員があたし達が席に着くまであのままみたいなの」
「ああ、彼らがそうしたいんだろう。ほっとけば良い」
「木城さん、なんとかして下さい!」
木城さんはう〜んとうねっている。
こうなったらお姉さんにお願して見よう。
「もしもし、みかんです。おはようございます。はい。食堂で…はい。わかりました」
「みかんどうした」
「お姉さんもくるって」
「そうか」
※
あたしと勇司はお姉さんが来てから箸をつけた。
「美味しいですね」
「そうよ。一流のコックを雇っているからね」
あたしは食堂での一件を話した。
「なるほど。わかったわ。足立に話しておく」
「ありがとうございます」
「じゃあ、あたしはこれからオンライン授業があるから」
お姉さんは食器を片付けて食堂を出て行った。
少しでも変わってもらえたら良いんだけど。
次の日には食堂にパウチされた張り紙があった。
社員の皆様
食堂は役員も使用します。
挨拶はほどほどに。
ご飯は暖かいうちに食べましょう。
取締役 南 夢
お姉さんらしい。
あたしは微笑ましく張り紙を見ている。
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