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第七話 うちも赤ちゃん欲しい
一時、勇司が通っている大学のサークルに入部していたが、勇司の勧めでサークルを退部して、ボランティアをやる事にした。
「みかんちゃん、お疲れ様でした」
「裕香さんお疲れ様でした」
「だいぶ慣れて来たようね」
「はい。裕香さんのご指導あってのあたしです」
「まあ、褒めすぎですよ」
目黒保育園でボランティアを始めてから半年が経つ。始めからずっと裕香さんに指導してもらっている。
一般的に指導員の指導次第で保育の上達に差がでるそうだ。
裕香さんの指導は子供目線から見ていて、子供を飽きさせないのがポイントだ。それに実際にやってみるので理解しやすい。
子供通しで教え合い、助け合う事を基本姿勢にしているので、置いてきぼりになる子がいない。
指導員が裕香さんでよかったぁ。
毎日が楽しくて、やりがいがわく。
将来を見据えて子供と向き合う仕事をしたいと自分で決めた目標だけれど、正直不安があった。
あたしは一人っ子でかつ学校では友達もいなくて、いつも一人だった。いわゆるボッチだ。
最近では悪魔に利用されて都市を破壊したこともあり、自分が子供を育てられるのか考えさせられる。
「短大を卒業したらどこを希望するの?」
裕香さんは目をキラキラさせてあたしの顔を覗き込む様に聞いて来た。
「はい。秩父に戻ります」
「そう。寂しくなるわね」
裕香さんの期待に答えられなくて心苦しいが、秩父での生活は外せない。
落ち着ける環境だし、子供が生まれたら自然の中で育てたい。
心に決めている事だ。
まあ、東京が合ってないだけかもしれないけれど。
「たまには遊びに来ます」
「そうね。くび〜を長くして待ってるわ」
「「ふふふ」」
裕香さんとは長い付き合いになるかもしれないなぁ。
今を大切にしなくちゃ。
※
それから数ヶ月が経ち、東京に来てからかれこれ一年が経った。短大二年生になったあたしは、後一年で卒業になる。
頑張らなくちゃ。
山手線から銀座線に乗り換える駅ホームを歩く。
プルルル プルルル
誰からだろう。
あたしはバッグからスマホを取り出す。
ぼたんさんからだ!
「もしもし」
『みかんちゃん?』
「ぼたんさん、こんにちは」
『今大丈夫?』
「はい」
ぼたんさんは電話口で弾んで話している。どうやら妊娠の傾向があるらしい。まだ妊娠検査薬での反応だけれど。
ぼたんさんはあたしの一年先輩。今年二十歳になる。
秩父で行った合同結婚式で、ぼたんさんと浩介さんは二十歳になったら籍をいれて、子供を作ると決めた。
あたしと勇司も二十歳になって籍を入れる。
当時は子供の話は決めてはいなかったが、籍を入れてからと言うのは暗黙の了解になっている。
改めて決めても、勇司は籍を入れてからというだろうなぁ。
「本当ですかぁ。羨ましい」
『まだ確定では無いけどね。みかんちゃんは二十歳になってから?』
「う〜、勇司が二十歳になってからっていうだろうからぁ」
『二十歳に産まれる様にすればいいのよ』
「どういう事ですか?」
『来年の今頃生れる様に予定を立てればいいのよ』
なるほど。勇司に黙って、いや騙す?作戦でもいいかも。
「うん。聞いてみる。ありがとう。確定したら連絡下さい」
『わかったぁ。じゃあまたね』
「はい」
あたしの足取りは早かった。
「ただいま」
「おかえり。今日はどうだった?」
「うん。今日も楽しく過ごしたよ」
「そうか。ご飯できてるから、食べたら早く寝たほうが良いぞ」
「う、ん。今日久しぶりにどう?」
勇司は顎に手を当て考えている。
「良いけど、明日も早いだろう。大丈夫なのか」
「大丈夫、大丈夫。頑張ろう」
「ああ」
うっしししっ。
うまくいけば妊娠できるかもしれない。
みかんの作戦にハマった勇司だが、勇司との間にできた子供がとんでも無い能力の持ち主になろうとは、想像すらできなかった二人であった。
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