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第九話 卒業して秩父へ
ぐすん ぐすん
「みかん〜、絶対また会おうね」
「うん。うん。ゆかちゃん、絶対だよぉ〜」
「みかんちゃん、うぇ〜ん」
「いっちゃんもね〜」
うえ〜ん
行事は女の子にとってとても大事なのです。
入学式はお友達探しに、サークル探し。就学中を如何に楽しく過ごすかが課題なのです。だから入学して1ヶ月はあっちにいったり、こっちにいったりしています。
卒業式は級友との泣き泣きの別れ。就学中の歴史を分かち合います。まるで映画を見ているかの様に思い出されます。特にあたしは秩父に帰るので滅多に会うことができない友達です。
今日は短大の卒業式なのです!
級友達と抱き合い泣き泣き、改めて友情を確かめました。
ぐすん、勇司、ぐすん。
「行くぞ」
「う、ん」
勇司は半分呆れている。
男性はさらっとしていると聞く。中には卒業式が終わると早速帰宅する人も…。
「暫くはこっちにいるんだろう」
「ううん。明日帰る」
「明日か…」
「どうして?」
あたしは、ぼたんさんのイタズラ案が功をなして、お腹には勇司とあたしの赤ちゃんがいる。
「お腹、目だってきているから、俺も行った方が良いだろう」
「勇司は学校があるでしょ」
「う〜ん。オンラインに切り替えようと思って」
「いいの?」
勇司は優しい。
一人で臨月を迎えるのは怖い。ぼたんさんがいるから少しは気がまぎれるけれど。かと言って四六時中一緒にいるわけでは無いし、浩介さんも大変だから。
「ヘリでも大丈夫かなぁ。石井医師に聞いてみるか」
「うん。そうだね。ちょっと心配」
石井医師が付き添いとして同乗するのが条件で、ヘリで秩父に帰ることして貰った。電車で2時間、駅から更に車で2時間はきつい。
へり2機で秩父に向かう。1機は機械類を積み込み、もう1機はあたし達が乗る。
勇司が手を伸ばしあたしの手を引く。後ろには石井医師が支えてくれた。
みんな乗り込むとお腹に気をつけながらシートベルトを閉める。
「みかんさん、大丈夫ですか?少しでも気分が悪くなったら言ってください」
「はい」
既に少し気持ち悪い。
つわりだと思うのだけれど。
勇司がパイロットに慎重に飛行する様に口が酸っぱくなるくらい言っている。
ふふふ。
なんか頼りになるなぁ。
ヘリが浮上していく。
やばい。気持ち悪い。
「石井さん。気持ち悪いです」
「つわりもあって、通常より酔い安くなっているのでしょう。ここに吐いてもらっても良いです」
何回吐いたことか。
自宅に着くと直ぐにエコー検査、器具を使い目視をして、問題ない事がわかり、今はベッドで寝ている。
石井医師は出産まで滞在してくれるらしい。
心強い。
ついでにぼたんさんの方も面倒を見てくれるとのこと。
来週には助産婦も来るし、ぼたんさんもうちに引っ越してくる。
賑やかになるなぁ。
※
笑って話していたことが正夢みたいに実際に起こっている。
食卓につき、男性諸君が働いているのを横目に、二人でお腹を摩りながらお茶をしている。
「夢が正夢になったわ」
「ほんと」
勇司がキッチンから戻ってくると、浩介さんに声を掛けた。
「浩介さん、手伝ってください」
「おう」
「「ふふふ」」
今日は勇司と浩介さんでご飯を作るらしい。
楽しみだ。
お腹をさすっているぼたんさん。
ぼたんさんはもう少しで生まれるみたい。
ぼたんさんでさえ不安でいっぱいみたいだから、あたしに出来るのか?だんだん自信がなくなってくる。
あたしもお腹をさすり、未来に生まれてくる子を見つめる。
そうそう話してなかったね。
1ヶ月前に雄牛と雌牛を買ったんだぁ。
それがね。
勇司が名前を付けたんだけど…
雌牛は弓、雄牛は光太郎だって。
どんだけマザコンなんだか。弓と光太郎は後尾をしているから、もうじき仔牛が生まれるんじゃ無いかなぁ。
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