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第一話 不貞腐れた勇司
あたしのフィアンセになった勇司。今あたしは幸せよ。
父と母が自殺して不幸のどん底だったあたしを救ってくれたのは、あの悪魔だけれど、悪魔が手を差し伸べてくれなかったらどうなっていたのだろう。ゾッとする。
人を滅ぼそうとした悪魔だけれど感謝しているのよ。
一時的だったけれど希望を与えてくれた。それにこんな素敵な旦那さんをプレゼントしてくれた。
あたしは勇司の寝顔を見つめる。
高校に入学してからすぐに危ない目にあったね。
でもね、あたしは勇司、貴方がいてくれれば怖いものは無いよ。
お母さん、お父さんにはなんだかんだ言って助けて貰った。一生ご恩は忘れないよ。
お母さんが手塩をかけて育ててくれた勇司は今あたしの膝ですやすや寝ている。
痛かったよね。だいぶ殴られたみたい。青あざや擦り傷もある。
「う、うぅ」
あたしは勇司の髪を撫でている。
サラサラしてる。
「ううん。母ちゃん」
残念なのは、勇司はマザコンなんだよね。
お母さんは亡くなられたから嫉妬はしないけれど。お母さんよりも素敵な女にならないとね。
コンコンコン
『誰だろう』
あたしはそっと勇司の頭を床に置く。
ゴンっ!
「いってぇ」
『しまったぁ』
コンコンコン
「はぁ〜い。勇司ごめんね」
あたしは駆け足で玄関に行き、ドアを開けると、谷本浩介さんが爽やかな笑顔で立っている。
「おはようございます」
「おはようございます。浩介さん上がってください」
「ありがとう」
浩介さんがリビングに入った時には、勇司は食卓についてコーヒーを飲んでいた。
「勇司おはよう」
「おはようございます」
「浩介さん、何飲みますか?」
「お構いなく。勇司、そろそろ登校しないか?みかんちゃんもだが」
あたしは勇司を見る。
勇司はそっぽを向いてコーヒーを啜っている。
「勇司。みかんちゃんはどうなんだ」
あたしに振られちゃった。
あたしは…
勇司が登校するならだけれど。あたしが話そうとすると勇司が先に口を開いた。
「俺は行かないっす」
「どうして。彼らも先生も反省している。それに…」
「親父と母さんか」
「そうだ。勇司もみかんちゃんももうあんな目には合わないはずだ」
「わかってる」
勇司…
「あたし行きます」
「「へっ!」」
勇司も浩介さんも気の向けた言葉を吐いた。
「あたし登校します。勇司一緒に登校しよ」
「ああ」
あたしの鶴の一声だった。
「明日からな」
「わかった。明日迎えに来る」
あたしは浩介さんを送りに玄関に行きお辞儀をした。
リビングに戻るとむすっとした顔をしてコーヒーを啜っている。
「勇司。いいの」
「ああ、みかんが登校するなら俺も行くよ」
良かったぁ。あたしは勇司が行きたくないかと思って黙っていたけどれど。
「なあ、膝枕もうちょっといいか」
「うん良いけど。あたしのでいいの?」
「他に誰がいる」
そうだよね。
お母さんなんて言われたらどうしようかと思っちゃった。
高校生活は順調すぎるくらい順調だった。
※
リンチにあってからもう少しで2年経つ。
「勇司は進路どうするの?」
「俺は経済学を学ばなくてはならないから大学に進学するけど。みかんはどうするんだ」
「うん。まだ決まってないんだ」
あたしはこれからどうするんだろう。
将来は勇司の奥さんになって、子供を産んで主婦になる。
勇司の手助けできるほど頭は良くない。あの悪魔に取り憑かれて、体力も学力も向上したけれど、元に戻ったらなんて事ない昔のあたしに戻った。
学力も体力もダメだった。
「ねぇ、結婚したら勇司の子を産みたい」
「それは良いけど、その先があるだろ」
「そうだよね。ちょっと考えさせて」
時が過ぎると進路を決める期限があっという間に来た。
どうせなら子供に関係した仕事がしたい。
「勇司決めたよっ!」
勉強をしていた勇司は筆を止め、あたしに顔を向けた。
「どうする」
「あたし、保母さんになりたい」
「そっかぁ。わかった。今日本屋行こう。参考書が必要だろう」
「うん、ありがとう」
※
あたしは保母さんに向けて勉強した。
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