んから始まる言葉

　指を弾くと高い音が響きそうなほど、冷たい空気の張りつめた夜だった。だが、上司や先輩との飲みの帰りだった私は、火照った身体が痺れる感覚に、かえって心地良さを感じていた。
　私の任されている学習塾の業績が、社内で話題に上がらない日はない。勿論、通ってくれている生徒の成績だって、誰一人落としたことはない。
「朋美さん、夏からだいぶ上がってきましたね！　受験までラストスパート、冬期講習までは、理科と社会の予習が重要です。というのも、他の受験生も塾に通ったり受験対策をしたりしているわけで、どうしても復習に目が行きがちですが、ここでこの先の予習をしておくと、ぐんと差をつけられる。そして冬期講習では、これまで身につけた知識をフル活用して、一気に過去問演習を……」
　一年かけて培った生徒や保護者との信頼関係は、講習の売り込みで見事に数字として現れた。今日の面談も絶好調だった。自分のトークに保護者の頷きは止まらなかったし、申込もその場で頂いた。
　今日の飲みでは、酒に任せてその自慢を饒舌に語ってしまった。