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家に帰るのも惜しいくらい、まだこの酔いに浸っていたくて、川沿いをふらふらしていた。橋を渡っていた時、夜空に一筋の光が流れた気がして、ふと顔を上げた。
視線の先には、夜空を遮って、ちかちかと力なく点滅する巨大な看板が浮かんでいた。
もう夜の帳が降りて、町は動きを止めている。こんな時間に開いている店は、きっと居酒屋くらいだろうが、その看板の正体は、どうやら小劇場のようだった。
手をかけると、扉はいとも簡単に、私を中へ招き入れた。
薄暗い劇場。整然と並んだ客席が向いているのは、真っ白なスクリーンを併設した舞台だ。舞台や客席には誰の影もないというのに、舞台の中央には、まるでスポットライトのように、天井から一筋の光が射し込んでいた。
舞台に上がると、その正体は、天井にぽっかり空いた穴から射し込む月明かりだと気が付いた。
私は無意識に、舞台の上で好き放題に動き回っていた。スポットの中に駆け込んで、大変なことを告白する演技をしてみたり、逆に、虚ろな様子で入ってきて、寂し気に独白する演技をしてみたり。
高校時代、演劇部員として舞台に立った日のことを思い出していた。台詞や動きは曖昧だが、この場所でしか味わえない独り善がりな感覚に、私は酔いしれていった。
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