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社長、社長ってば。そのまま眠っちゃわないでくださいまし。風邪引いちゃいますよ。
「んにゃぁ?」
「彼の担任の先生。あの時の先生じゃありませんか?」
撫でられて寝こけてしまっていた黒猫を揺り起こします。
この男子中学生の担任は、以前うちの旅館へふらふらでお越しになった数学の先生じゃないですか。
何と言いますか、言葉数も少なく愛想も笑顔もなくやる気のなさそうな方でしたけれど、相当ストレスが溜まっているのだなあということは分かりました。
だって、うちの旅館の温泉に入って、美味しい地のものを食べ、猫マッサージを受けて帰る時の後ろ姿は、いらした時のそれとは大違いでしたもの。
「おお、思い出した。あのお疲れ先生か」
「あの担任の先生じゃあ、頼りにならないと言えばそうかもしれませんね」
「うーむ」
受験でストレスの溜まった彼のお家で、ひと悶着起きなければいいのですけれど。あ、申し遅れました。わたくし、この黒猫が主人を務めております四ッ足旅館で、仲居をしている者でございます。もちろん、わたくしも猫でございます。
さきほどの男子中学生は、渋々帰宅したようです。窓から見てみましょう。
「数学教師のくせに、お前の担任はちっとも頼りにならんな」
「お父さん、先生だって一生懸命やってくださっているのよ」
「そんなこと言って、この時期にちっとも数学の成績だけ上がらないじゃないか。今日、塾へ行って冬期講習を数学強化コースに変更してきたぞ」
「え、と、父さんそんな勝手に! 4教科コースでいいって言ってたじゃん!」
「いや駄目だ。数学をもっとやらないといかん」
「なんでだよ!」
「A校よりZ校に行って欲しいんだ父さんは」
「僕はA校に行きたいのに、父さんが決めないでよ!」
A校というのは、かの文豪がその前身を立ち上げたとも言われる由緒ある高校のようですね。いわゆる文系の学校で、文芸部が有名だそうです。彼はそこに入部したいのでしょうね。Z校は理数系に強い学校で、有名大学への進学率が高く就職に有利なんだそうです。
「もういい! 僕はどこも受けない!」
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