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「それ以上やりたいならもっと詰め込むけど」
「いえ! いえそれでいいです」
「そのあとはこの宿自慢の夕食と、ご褒美つきだよ」
「ご褒美?」
「その時のお楽しみ。さあやるのかい? やらないのかい? どっちなんだい?」
「やります!」
男子中学生は扱いやすくて助かります。すっかり社長を担任の先生と思い込んでいる彼は、ご褒美の言葉につられて部屋へと入っていきました。
さて、わたくしたちは彼をおもてなすことに集中しましょうか。
「あと50問、頑張れ」
「ひぃ。先生、こんなスパルタキャラじゃなかったじゃん。どうしちゃったんですか」
「僕もさ、心を入れ替えたんだよ。みんなが受験勉強で頑張っているんだから、僕も頑張らないと」
「僕が疲れちゃいましたよ」
「仕方がない。ご褒美の第一弾をあげよう」
にゃっと先生は空中で一回転をして、黒猫の姿へと戻りました。
「せ、先生!?」
男子中学生が驚くのも無理はありません。バスに乗る前、愚痴を聞いてもらっていた黒猫が、目の前にいるのですから。見間違いだろうと、何度も目を擦っています。ま、そこは別に大事なところではないので、信じようが信じまいがどっちでもかまいません。
「特別だぞ」
黒猫はお腹を開いて見せます。ヘソ天というやつですね。男子中学生は猫を前にして、現実などどうでも良いという表情に変わりました。猫の力は偉大ですね。
「猫、吸っていいの?」
「五分だけな。吸いすぎは良くない」
「やった!」
猫の吸いすぎはたしかに良くありません。戻って来れなくなりますからね、こっち側に。なぁんてのは冗談ですけれど、彼にとってご褒美なのは間違いないでしょう。すうと幸せそうに黒猫のお腹へ顔を埋めています。
「5分終了。気分はどうかい?」
「めっちゃスッキリしました!」
「その状態で、さっきの問題を解いてごらん」
「……あれ? スラスラ解ける! どうして?」
そうなのです。猫から出る不思議なエネルギーは、人間の疲れを癒やし、脳を活性化させる働きがあるのです。煮詰まった男子中学生に、社長からのプレゼントというわけです。さすが社長、粋なはからいですね。
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