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「もうひとつご褒美。頑張った君へ猫マッサージだ」
「猫マッサージ?」
「そのまま、うつぶせうつぶせ」
先生、いや黒猫の姿へと戻った社長が、わたくしたち従業員に合図を送ります。わたくしたちも猫の姿へ戻り、担当箇所を肉球でやさしく押していきます。わたくしは首の付け根担当。ここは疲れが一番出やすいところです。手のひらや足の裏にも猫の肉球がまみれていきます。
「て、天国かな」
あらやだ。まだ天国には早いですよ! 高校に受からなきゃ!!
本当は猫合宿が終わってお家へ帰そうかと思いましたけれど、すっかり猫マッサージで気持ち良くなって寝てしまった男子中学生を起こすのも忍びなく、朝まで寝かせてあげることにしました。
「おはようございます。朝ご飯ですよ」
寝ぼけてうーんと伸びをしている彼の脇に、豚の生姜焼きを包んだおむすびと、いりこの味噌汁を置きました。
豚は「トントン」拍子、おむすびは良い結果を「結び」つける、いりこは「いりこう」、入校できるの語呂合わせです。縁起が良いでしょう?
美味しそうにおむすびを頬張ってくれる彼に、わたくしはひとつ提案をしました。
「食べ終わりましたら、この旅館の裏に神社がございます。そこで合格祈願をいたしましょう」
社長、そして仲居たち全員も集まり、みんなでお詣りをいたしました。社長は数学教師の格好をしています。その姿で、男子中学生に言いました。
「A校はたしかに文系だけれど、数学のできる生徒は強みが増える。文芸部で面白い活躍ができるかもしれない。思い切り勉強できるのは今しかない。今しかできないことを楽しもうじゃないか」
「はい。先生、僕頑張ってみます!」
帰りは、みんなでバス停までお見送りです。
「ありがとうございました」
「お世話になりました」
あ、バスですか? あれはまた昨晩乗ったところで降りますよ。ちょちょいと猫魔法をかけて、時間と場所を四ッ足旅館へ飛ばしただけの話です。
「あれ? あれ? 僕、旅館に一泊したんじゃなかったっけ」
バス停から降りた彼は、不思議そうにしながら自宅へと戻って行きました。
彼はお家の方ともよく話し合えたらしく、社長とわたくしは窓の外からそれを見守ると、こっそり姿を消しました。
本当の翌日。
少し心配だった社長は、黒猫の姿になって男子中学生の登校を見守ったようです。世話焼きなんですよね、うちの社長。
校門で挨拶をしていた数学教師に、彼は
「昨日はありがとうございました!」
と元気よくお礼を言っていたそうです。言われた方の先生は、頭にハテナが浮かんでいたそうですよ。うっふふ。
終
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