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手前に置かれた皿には、豆腐、銀杏や栗、しらすなどを使ったひと口サイズの料理が綺麗に盛られている。その奥には、お待ちかね海の幸だ。
「こちらは前菜六品でございます。秋のお造りは金目鯛、太刀魚、黒鮪にイサキ。どれも地のものを使っております。お手数ではございますが、お好みでわさびをすってお召し上がり下さいませ」
口にもご馳走だが、目にもご馳走だ。グルメに縁のない僕でも、一目で新鮮な魚だと分かる。前菜もひとつひとつ手が込んでいて、食べるのが勿体ないくらいだ。わさびをする作業も楽しい。
前菜をつまみ、ぷりぷりの刺身に舌鼓を打ち、わさびにツンとなり、慌ててワインを飲む。目と鼻の間を押さえてツンを逃がしていると、いつの間にか目の前には、くつくつと煮えた小鍋が登場していた。
「松茸と三ケ日牛のしゃぶしゃぶでございます。湯河原のみかんを使ったポン酢だれでどうぞ」
こちらも地のものにこだわった心尽くしのメニュー。松茸と牛肉なんて口にした記憶は遥か遠く、口いっぱいに広がる味わいに、喉も胃も大喜びだ。
しゃぶしゃぶする食材が心もとなくなってきた頃、運ばれてきたのは金目鯛の煮つけ、炊き立てのご飯、椀物だ。絶妙なタイミングにはさっきから驚かされる。どこかで様子を見ている? まるで猫のような動きだ……あ、そうか。猫か。
優しい味付けの金目鯛は箸でほろっとほぐれ、ご飯に乗せるとつゆが染み込んでいい具合の美味さだ。お椀の中身は赤だしの味噌汁。これもまた贅沢な料理で満たされた胃には嬉しい。
すっかり猫主人のペースにハマり、出てくる料理をすべて平らげたところで、ようやく満腹になっていたことに気が付いた。普段こんなに量も質も摂取していない自分自身に申し訳なくなってくる。
膨らんだ腹をさすっていると、猫主人が再びお盆を持って来た。
「料理はご満足して頂けましたでしょうか?」
「はい。どれも美味しかったです」
「ありがとうございます。こちらは食後のコーヒーと、手作りマカロンでございます」
「マカロン?」
さすがにコーヒーくらいしか入らないとは思ったが、見ればひと口サイズの焼き菓子がソーサーに添えられている。表面には猫の顔が描かれていて、僕の心はすっかり射抜かれた。
「可愛いですね」
「ありがとうございます。フードペンで描くのですが、これがなかなか難しくて」
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