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「えっ、ご主人が作ったんですかこれ!?」
「ふふ、左様でございます」
さても謎の多い猫主人だ。
再び一人になったところで、コーヒーに口を付けた。満腹感と多幸感の詰まった胃に、程よい苦味が爽快感をもたらしてくれる。食後のコーヒー、いい。
不思議なことにあんなに満腹だったのに、手が勝手にマカロンへ伸びて口に運んでいた。
サクッと軽い食感、ほんのり甘いバニラの香り、口溶けの良いあと味。これがまたコーヒーとよく合うので、一つ二つとつまんでしまう。
ゆっくりとコーヒーを味わっていると、猫主人がおかわりを注ぎにやって来てくれた。つかず離れずのタイミングが心地良い。
「温泉は堪能して頂けましたでしょうか」
猫主人の問いかけに、いつしか僕は身構えることを忘れ、まるでそれが自然なことのように受け答えしていた。
「はい。とてもいいお湯でした。肩の凝りもほぐれるような」
「それはようございました。当旅館のお湯は、筋肉の疲れ、リウマチなどによく効きます。見たところ、お客様のお疲れは相当溜まっているとお見受けしました」
「はは、バレてましたか」
「ええ。私共と同じような猫背が」
「あ、あはは」
確かに、気付けば肩が丸まっているもんな。
なんというか、いろんなものから隠れるみたいにして、毎日息を詰めて過ごしているような僕だ。面倒くさいもの、近寄りたくないもの、苦手なもの。疲れからくる猫背を理由にして、縮こまって目立たないように生きている。
「お布団を敷かせて頂きますが、別料金にはなるのですが、よろしければ猫マッサージというものがございます。お試しになりますか?」
「猫、マッサージ?」
「はい。癒されるとお客様には好評でございまして」
なんとなく想像がつく。癒しの猫マッサージ。もしかしてもしかするかもしれない。
「その、マッサージしてくれる方というのは」
「ええ。我々、猫が施術させて頂きます」
かくして僕は、ふかふかの布団に上にうつ伏せになっている。僕の上には猫が三匹。その柔らかい肉球で踏み踏みをしている真っ最中だ。
「揉み加減はいかがでございましょう?」
「さ、最高、れす……」
首から肩にかけて、適度な重みと暖かさで凝りをほぐしてくれているのが、猫主人。仲居さん二匹は、腰とふくらはぎを担当してくれている。なんだこりゃ天国か。
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