猫の手貸します名旅館

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「とてもいい時間を過ごせました。ご主人、皆さん、本当にお世話になりました」 「こちらこそ。お客様に楽しんで頂けて何よりでございます。あ、近くに小さいですが滝がございまして、そちらも癒し効果抜群の観光スポットとなっております。ぜひお立ち寄りになってみて下さいませ」 「行ってみます」 「それと。荷物になってしまいますが、当旅館のお茶をお持ち帰り下さい」 「あ、このお茶とても美味しかったです。ありがとうございます」  猫姿の猫主人から自分の荷物とペットボトルのお茶を受け取り、名残り惜しい気持ちを堪えながら宿の玄関をあとにする。いい旅館だった。ちょっと不思議だけど、非常にいい旅館だった。猫主人、仲居さん達、ありがとう。  僕はもう一度お礼をしようと来た道を振り返る。きっと皆さんが見送っていてくれているのだろう。  そこに宿の姿は影も形もなく、さわさわと木立のざわめきが聞こえるばかりだった。  あっけに取られた僕は、喉の渇きを覚えてペットボトルのお茶を口にする……、あれ。このお茶は消えていない。どういうことだ。  コンビニに置いてあったお茶のキャンペーンシール。あれから全ては始まった。謎が解けたような、より深まったような。  うん。まあ、いいか。猫主人に教えてもらった滝を見てから帰ろう。  にゃん、と背後で合いの手が聞こえたような気がした。    終  
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