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猫吸い効きます受験生
「僕が数学超苦手なの、知ってるくせにさ。理系がいいって父さんが口うるさいんだ」
彼はそう黒猫にぶつぶつと愚痴をこぼしています。黒猫は知ってか知らずか、あーあと大きなあくびをひとつして、彼の足元で丸くなっていますね。
来年高校受験の男子中学生。来年といってももう今は11月半ば。受験生はこの冬が山場でしょう。年末年始は元日すらも休まず追い込み特訓のようです。
嫌になるのはよく分かりますけれど、猫にしか愚痴ることができないのでしょうか。お父様が無理なら、だれか他に相談できる大人はいないのかしら、先生とか。
「僕はさぁ、完全に文系脳なんだって。何回言っても分かってくれない」
彼の愚痴は続いています。黒猫は毛並みの手入れを始めました。長丁場になると覚悟したらしいですね、空気の読める猫です。さすがうちの……こほん。
「やりたいことなんて……あるけど、言えるわけないじゃん」
彼の口調に影が落ちています。唾液で湿った黒猫の毛並みを撫でている彼の、学校の様子を見てみましょうか。
彼は10月の文化祭を以て部活を引退したようです。早いところで春には引退をして受験勉強にシフトするクラスメイトもいる中、彼はぎりぎりまで勉強と部活の両立を頑張ったようですね。それはそれで凄いと思いますよ。
出し物は、学校をテーマにした文芸誌の発行。つまり小説を書いたわけですか。彼の作品は、「猫と少年と教科書」なるほど、読んでみたくなるようなタイトル。彼は小説を書くのが好きなようです。
彼は鞄の中から自分の書いた本を取り出し、ため息をつきました。
「分かってるさ。小説家になんて、そうそうなれないことくらい」
彼には小説家になりたいという夢がある。だけれど、それを強く親に言うことはできない。なぜなら自信がないから。親の方とすれば数字に強くなってもらって、食いっぱぐれない職業に就いてもらいたい。そんなところでしょうか。
担任の先生は、彼の事情を把握しているのかしら……っておばちゃんたらおせっかいでしょうか。ちょっと見てみましょうってあ、あの先生! 前にうちの旅館にいらした方だわ。
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