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 私は三度、同じ人に連絡先を聞いたことがある。三度だ。そして、三度とも直接連絡先を教えてもらえることはなかった。衝動だった。恋と呼ぶに相応しい、れっきとした衝動だった。  あれはたしか修学旅行の時だったと思う。旅先の自由行動の時だったんじゃないだろうか。私は友人二人とお店巡りをしていた。とにかくお洒落な喫茶店や、ちりめん細工館を見つけては入って出ての繰り返しだった。 「あそこの抹茶ラテ、めちゃくちゃ抹茶濃かったねー」 「うん、美味しかった」  などとやり取りをしていたときだった。人ごみの中を歩いていたため、人をよけるのも大変っだった。すると、 「いたっ」  私は右肩に衝撃を受けて、よろけてしまった。見ると、同じ学校の学ランを来た男の子が数人かたまって歩いていたようだった。 「ごめん」  不愛想に、けれど手を貸してくれたのが彼だった。背が低く、顔はぼんやりとしていたけれど雰囲気が好きだなと思った。 「いえ、すみません」  そう言って私はその男の子の手を取って、体勢を立て直した。その手は意外としっかりとした手だった。大きいというのではなく、少し硬質で力強い手。  そうしてすぐに彼らは私たちとは反対方向に歩き出した。私の友達も、同じタイミングで、行こ、と言って歩き始めてしまった。今だ、と思った。 「あの」  控えめな声で、最後尾を歩く彼に声を掛けた。 「連絡先、教えてもらえませんか」  急でさぞ驚いただろうと思いながら見ると、彼はなんでもない顔をしながら携帯電話を持ち上げて、もう知ってるよ、と告げたのだった。  私は意味が分からずぽかんとしてしまう。 「グループ」  そう言われて、彼とグループLINEで繋がっていることを知った。それが一度目だった。
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