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「ありがと、ランディ」
「天野」さんは、涙を拭って目をぱちぱちさせ、笑った。
「ごめんね、変なこと言っちゃって。でも聞いてくれてありがとね。SNSでつぶやこっかなって思ったんだけど、ハルトにこんな言葉、届けられないよね……。うん、そうだよね。もう私、ハルトのこと忘れる。グッズも全部捨てる。次のゴミの日に、捨てるわ」
そういって「天野」さんは、ぎゅっ……、っと、ランディの首を抱きしめた。「天野」さんのお花の香りが、ランディの鼻をくすぐる。くぅ……んと、よだれが出かかったころに「天野」さんが腕を離したので、「天野」さんのチョコレート色の髪は、ランディのよだれを辛うじて免れた。
「ランディ、ありがとー!」
ひらっ、ギンガムチェックのスカートがはためいて、「天野」さんは走り去っていった。あとにはお花の香りだけが残っていて、ランディはもう一度、フゥン、と深呼吸をしたのだった。
今日も、幸せな平凡に満ちた一日だ。青空が澄み渡っている。気温も正午すぎにはいい具合に上がって、チョウチョが若いクローバーのそばをウロチョロしている。
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