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ランディの住まいはここ、小さな町工場のガレージである。ランディは当初は番犬として雇われたはずだが、あまりに物静かな性格のため、番犬としての役割は早々に忘れ去られた。工場の社長は代わりに、ランディに「癒やし」の仕事を与えた。つまり、日々の労働に疲れ切った人々を和ませ、笑顔を思い出させる仕事。それがランディの使命になった。
とはいえ、一見ランディは何もしていないように見える。ていうか、はっきり言ってランディは全く、何もしていない。寝て起きて食っているだけである。けれどもランディがいつも町工場の入り口で退屈そうに寝転んでいる、その日常が今日もある。そのことが、職員のストレスの大幅な軽減につながったのである。
例えば朝の出勤時、
「ランディ、おはよ」
と、ふさふさの毛並みを撫でること。
それから昼下がり、
「ランディ、お前も眠いよな、昼飯食った後は」
とタバコをふかしながら、流れる雲を並んで見ること。
たったそれだけのことが、職員たちの傷を癒やし、消耗したエネルギーをやわらかに回復させたのだった。
「あのさぁ、嫁が帰ってこなくてさ」
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