12人が本棚に入れています
本棚に追加
「竹尾」さんはしばしそのシュシュをじっと見つめた。そして、そっとポケットに入れた。心なしかふわっ、と気温が高まった気がする。
「明日、渡しとくか。……じゃあ。またな、ランディ」
そう言って「竹尾」さんは行きかけたが、「あっ」と戻ってきて、
「今の話、ふたりだけの秘密な」
と言い置いていった。
秘密も何も、ランディには誰にも話せないのだが。何しろ犬なので。
と思ったが、ランディは固く口を閉じて、「秘密にする」の意を表明したのだった。
ランディのもとに「天野」さんが再訪したのは、その数日後だった。
「ランディ、あのね」
言いつつ、「天野」さんは手首のシュシュを見つめている。こないだ、「竹尾」さんがポケットに入れたのと、同じシュシュだ。パステル色のシュシュは春色で、あたたまった午後にぴったりだった。
「天野」さんはシュシュを見つめながら、
「ねぇランディ、聞いてくれる?」
と尋ねた。
ランディは首を縦にも横にも振らないけれど、聞かないという選択肢などないのは明白だった。なぜならここが、ランディの定位置だったから。
最初のコメントを投稿しよう!