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昔からの性格
和子は、焦っていた。
単位が足りないから学校に行かなければいけないのだが、鬱状態が酷くて学校に行くことができない。
和子と母が高校まで過ごした自分の部屋にいる。
そもそも、高校は履修制ではなかったので単位が足りないなんてことはあり得ないのに。なぜか足りない。
かといって、大学の単位ではなく、自宅の自分の部屋にいるのだからやはり、高校の単位なのだろう。
大学は家を出て、母のいない所で住んでいたからだ。
でも、急に大学の単位まで心配になってきた。
母は、和子が
「自分からうつ病で学校には行かれないから、単位の履修を少し待ってください。と学校に連絡する。」
と、口にするよう、回りくどくずっと話をしている。
そもそも娘が鬱病なのが許せないので、学校の先生に
「娘は鬱病が酷くて、学校に行かれる状態ではない。」
などと、絶対に言ってはくれない。
母は昔からそうだった。手伝ってほしいときも、自分から
「手伝って。」
とか、
「助けてほしい。」
と言わない。気が強いので、プライドが許さないらしい。
それに、自分から言うと、なにか借りをつくるようで嫌なのだろう。
いろいろと、自分が今は大変だから、その用事が出来ないと言う事をずっと並べあげる。それをずっと聞いていて、うんざりした子供達、この場合は和子と姉が自分から
「じゃぁ、手伝おうか?」
と言うのを待っている。
すると、急に立場は逆転する。
自分から言ったのだから、途中で投げ出すことは許されないし、きちんとやらなければ
「自分から手伝うって言ったのに。」
と、怒られるのである。
もう、それがわかっているので
「手伝おうか?」
と、言いたくない。
でも、いわなければ、その後は終始不機嫌で、その用事が終るまでは食事も作ってはもらえないし、わざと、ぶつかって来て爪が当たったふりをして引っかいたりする。
そこまで考えて、和子は気が付いた。
なんだか自分をすごく客観的に見ている自分に。
そう。和子は実は宙に浮いていて、つらい思いをしている和子と、意地悪をしている母親を見ているのだ。
そこで、気が付いた。
あぁ、久しぶりにこの夢を見た。
母はもう亡くなっているし、家の作りも少し変だ。
何か理不尽な目に遭ったり、自分が辛いときに見る夢だ。
特にその日、つらいことはなかったと思うのだが、心の中に何かあったのだろう。
でも、夢だと思っても、目が覚めない。ずっと、その足りない単位の事で、学校に電話をかけなければいけない状態が続く。
『辛い。おかあさんは、なんでこんなに私を辛い目に合わせるんだろう。』
そこで、ようやく目が覚めた。
目が覚めても、夢の中の事が反芻される。
私って、単位落としたっけ?とまだ考えている。
高校では単位を落とすわけはないし、大学でも、きちんと全部の単位をとって、卒業しているのだから、単位はどこでも、一つも落としていないのだ。
目が覚めて、そこまで考えてようやくほっとした。
その夢には、母と相性の悪かった、父方の祖母も出演していた。
二人共、もう鬼籍の人だ。
和子の叔母も、和子の姉も、亡くなった家族が夢に出てきたことが一度もないと言うのだが、和子は不思議と亡くなった家族の夢をよく見る。
楽しい夢の事もあるし、今回の様に辛い思い出が繰り返される夢もある。
ただ、夢の中でも生きていた時のように、和子の鬱病を許してはいないし、母が都合の悪いことには決して口や手を出さない。
和子は、どうせ、久しぶりに見る夢ならば、母と会うのは楽しい夢がいいな。
と、部屋に飾ってある母の写真に手を合わせた。
【了】
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