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その週末。
俺は意を決して二人だけの食事に花巻さんを誘ってみることにした。
「花巻さん金曜定時で行けそうですか?」
「あ、森さんお疲れ様です。はい今週はスケジュールラフなんで定時で帰れそうです」
嬉しそうに笑う花巻さんと対照的に俺の笑顔はかなり固いだろう。
「飯どうですか?」
「いいですねぇ」
「この前行ったレストランがおいしくて」
「そうなんですね。森さんのチョイスっていつも間違わないから楽しみです。後誰か声かけてます?私も誘ってみましょうか?」
いつも通りの流れだけど、今日は違うんだよ、花巻さん。
「いや…。今回は二人で…。花巻さんと二人で食事したいんです」
彼女の表情を見る。
少し驚いた後、ちょっと照れたように耳に髪をかけてうつむく。
「わ、わかりました」
さっきまでと違ってちょっと声に緊張感はあるものの、悪くはない表情だ。
「じゃ、金曜に、また場所とかLineしときます」
「はい」
小さく答える彼女にきゅんとしてしまう。
俺がその場を去ろうとすると、
「あ、あの、」
と花巻さんが引き留めてきた。
振り返ると—。
「金曜日、楽しみにしてます」
そう言ってはにかむような笑顔を見せた。
「はい、俺も楽しみにしてます」
多分飛び切りの笑顔だっただろう。
ただ二人で飯を食いに行くだけだ。
それだけなのに俺は超浮かれまくって足取りも軽くなってしまう。
自覚はなくても相当焦っていたのだろう。
ほんの半年弱の期間だけど、これだけの嫉妬が自分の中に湧き上がるほどに、花巻さんのことを好きになってしまっているのだから。
その一週間は、入社してから最も早く、最もじれったい一週間だった。
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