告白

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「森さんごめんなさい、お待たせしました。」 会社から2.3分ほどのバル。 一見したら見過ごしてしまいそうなお店。 そんな店の前で待ち合わせる。 俺が浮かれてるせいか、金曜日のせいなのか、街ゆく人もなんだか足取りかるく楽しそうに見える。 「いえいえお疲れさまでした。」 小走りに近寄る花巻さんにドキッとする。 髪型が変わってメイクもいつもとちょっと雰囲気が違う。 服装だってストールを巻いただけなのに会社でのイメージと大きく変わっている。 「…ちょっと気合入れすぎちゃいました…?」 恥ずかしそうにうつむく花巻さんを見て、ちょっとにやけてしまう。 これは俺のためにっていうことだから…。 「いえ…、あまりきれいだからちょっと見とれちゃって…」 なんのお世辞も嘘もない。 そんな俺の言葉に花巻さんはさらに耳を赤くした。 「…もう!森さんなんかそう君みたいですね。」 そう言って、 「お待たせしちゃったしおなかすきましたよね?入りましょうか?」 と話をそらした。 「そうですね。」 俺も同意して店に入った。 「いらっしゃいませ」 カジュアル過ぎず落ち着いた雰囲気の店内は程よいほの暗さがある。 通された席はカウンターに近い壁際のボックス席だった。 「雰囲気いいですね」 オーダーをした後店内を見渡した花巻さんが言う。 「でしょ?この前は鏑木さんとランチに来たんですけど、味もいいんですよ」 「へぇ」 すぐに運ばれてきたドリンクで乾杯をした。 「花巻さん、B社とお仕事してたんですね」 少しアルコールを口にしたことで気になっていたことを聞いてしまう。 がっついてんなぁ俺。 でもそんな俺に花巻さんはいやな顔をせず答えてくれる。 「はい、何人かで担当したんですけど、なんていうかコミュ力の高い人たちなんで、圧倒されそうになりましたよ」 そう言って笑った。 「あぁ、なんかそう言うのにたけてるっていうのはきいたことあります。」 仕事もできてノリもよくて顔もいい。 スペック高すぎだろ? 「ただちょっと私はあのノリが苦手でして…」 苦笑する花巻さん。 まぁ、わかる気がする。 「春木君と似てるけど、ちょっと違うんですよね。わかります?」 俺も同調する。 「あぁ、わかります」 共感できたことで花巻さんが前のめりになってくれる。 「この前もB社の方が声かけてくれたじゃないですか? 『お互いの社で親睦会でもしたいですねぇ』とか『うちの男性社員は精悦ぞろいですよ』とか『一緒に飲みに行きたいなぁ』とか…。それって合コン?とか思っちゃいました。」 一気にまくし立てて、深くため息をついた。 「はは…。でも高スペック男子多そうだし、合コンしたいっていう女性も多いんじゃないですか?」 「まぁ、そうかもしれないですけど…。」 そう言ってグラスを少しもてあそぶ。 「私にはそう言うのの幹事は無理だし、それに…」 「それに?」 「今のチームの男性のほうがその、素敵な人が多いので…」 最後は聞こえないくらい小さな声になっていた。 可愛い。かわいすぎんだろう…。 「うれしいな。そんなこと言ってもらえてありがとうございます」 なんでもないように平静を装ってそうかわした。 「お待たせしましたレディースセットでございます。」 沈黙の中でタイミングよく料理が届いた。 「わぁ、おいしそう」 彩りのいいプレートのセットに花巻さんはさっきの恥ずかしさも忘れたような笑顔を見せた。 「俺のもすぐ来ると思うのでどうぞ召し上がってください」 そう促すと 「いいんですか?スイマセンじゃ遠慮なく」 と言っていただきますをしてスープを口にした。 「おいし―」 広がるような笑顔を見せてくれた。 そんな彼女を見ながら、B社の男に花巻さんをとられる心配がなくなったコトに、ほっと胸をなでおろした。
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