手をつなぐ

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このところ、敬語の間に時折混じるため口がたまらなくいい。 そんなことを考えながら運ばれてきたお茶で体を温める。 「はぁ、外寒いんだろうなぁ」 「だね」 「今日も窓の外で枯葉がグルグル回ってて」 そう言いながら、手をぐるぐる回している。 思わずその手を見つめてしまう。 「森さん?」 俺の視線に気づいた花巻さんが小首をかしげる。 「あ、ごめん。花巻さんの手きれいだなって」 あ、しまった。 これキモイよね? 「そ、そうですか?あ、でも佐々木さんに勧められたハンドクリーム。 すっごく私に合ってて、そのせいかも」 ほめられてうれしいのと照れ臭いのが混じった感じにはにかむ。 良かった。 気持ち悪いとは思われてないみたいでほっとする。 「はぁ ごちそうさまでした」 食事を終えて外に出ると、想像してたよりも寒い。 駅に向かうまでの道のりはほんの少しの距離だけど、 二人きりになれる大切な時間。 「思ってたより寒いですね。明日からは手袋必要かなぁ」 花巻さんは自分の手に息を吹きかけながら温めている。 あれ?これってチャンスじゃね? そう思うのに言葉もかけられないし行動もできない。 さりげなく手を握ってコートのポケットに入れたっていい。 それなのにただ彼女の行動を見つめるだけしかできない。 肩が触れ合いそうなほどの距離感。 俺の腕にすっぽりと収まるであろう彼女。 人通りの少ない冬の夜道。 手ぐらいつないだって自然な流れ…なはず。 「森さん寒くないんですか?」 「あ、うん、まぁ」 何となく冷たい返しになってしまった。 すると突然、彼女の小さな手に俺の左手が包まれる。 …! 「あぁ、こんな冷たくなってるじゃないですか」 そう言って今度は右手もつかんで一緒に包みこむ。 「まぁ私の手もそんなあったかくないんですけどね」 と笑って見せる。 突然のこと過ぎて緊張も全部吹っ飛んで、 ただただ手から広がる幸せなぬくもりを感じてしまう。 「少しあったまりましたかね?」 そう言ってにっこり笑う花巻さん。 ちょっと離れてしまうその手を視線が追ってしまう。 「またすぐ冷たくなっちゃいそうですけど」 その言葉に何となく彼女も離れた手を寂しく思っているんじゃないかと思ってしまう。 駅の方に体を向けた彼女のその右手をさっと握る。 「え?」 素早く、でも何でもないように恋人つなぎをして、 その手を俺の左手と一緒に俺のコートのポケットの中に入れて、 「ほら、行くよ」 と彼女に笑いかける。 その視線を少し外して少し赤くなってうつむく花巻さん。 さっきまでもっと大胆なことしてたくせに。 そう思ってしまうけど、やっぱりかわいい。 「は、はい…」 消え入りそうな声でそう答えて俺の横を歩き出す。 めっきり口数は減ってしまった。 でもぴったりとくっついて歩かなければいけない状況に、 俺は満足していた。 時折ちらちらと俺を見あげているのがわかる。 バーカ、 俺だって心臓バクバクしてんだよ! そう思うけど駅までの道を達成感と甘酸っぱい気持ちで歩いていく。 駅に着くとまだまだ人が結構いる。 「あ、あの…」 「ん?」 「あ、えと」 恥ずかしいのか俺のポケットに入れられた手をじっと見ている。 でも、でもね俺は離さないよ。 だってせっかくやっとつなげた君の手だから。 電車に乗って駅を降りて、彼女の家の近くの坂の前。 そこで、俺たちの手がほどかれる。 「じゃ、また明日」 「うんじゃね。」 そう言って別れたけど、俺は見てしまった。 俺に背を向けた彼女が、自分の右手をじっと見つめながら坂を上っていったのを。 なんてかわいいんだろう。 まぁ、俺も彼女のこと言えないけど。 左手に残る感触の余韻に浸りながら、 俺も家路をたどる。
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