彼女の部屋

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彼女の部屋

女の子の部屋ってどんな? 最近良く考えてしまう。 限りなく無駄な煩悩。 10代の頃の同年代の彼女の部屋は、ファンシーという言葉がしっくりくる“カワイイ部屋”だったのを覚えている。 まぁ、たとえそこが居心地悪くても、煩悩妄想爆走している10代男子には、そんなことどうでもよかった。 20代になってすぐのころは、ちょっと年上の女性の部屋、生活感のある女の子の部屋、とにかく大人の雰囲気をそこに感じていた。 「お疲れ様です」 「あ、お疲れ様」 金曜の花巻さんは心なしか嬉しそうだ。 明日がお休みだからって言ううれしさや開放感がにじみ出てしまっている。 そんな素直さがかわいい。 「明日森さんは予定ありますか?」 「明日?」 「はい、急なんですけどもしお時間あれば、付き合っていただきたいところがあって…」 最近はこうやって花巻さんの方から誘ってくれることも増えてきた。 「俺は特に何も予定なかったから大丈夫だよ」 ぱあっと明るくなるその表情に、俺は満たされる。 「あの、先週オープンしたパン屋さん行きたくて。いいですか?」 「あぁ、あそこね、俺も気になってた」 さらに嬉しそう。マジで殺人レベルの可愛さ。 「じゃぁ、明日10時30分に駅前公園でいいですか?」 「了解」 俺は比較的ポーカーフェイスだ。 でもきっと目の前でうきうきしている花巻さんより、 実際俺のほうが浮足立ってしまっている。 「ごめんなさい、お待たせしちゃって」 「全然いいよ」 待ってる時間もかなり楽しいし。 今日は休日デート。 それにしても…。 普段から私服みたいなもんだけど、デートの日の花巻さんの私服は全然いつもと違う。 俺のことを考えて決めた服、俺のことを考えて整えた髪、俺のことを考えて施されたメイク。 何よりほのかなフレグランスが俺の嗅覚も狙ってくる。 つまりは、俺のための花巻さん。 休日会うのはほんとにこれだからたまらない。 俺を少し見て、すぐに俯いてしまう。 「いつも思うけど、森さんって会社の外で会う時いつもよりかなり…その…か、かっこいいです」 言ってる花巻さんより俺のほうが数倍照れるじゃん! 「そ、そう?うれしいな、ありがとう」 何でもないように笑顔を作る。 「花巻さんの方こそ、社外ではいつもの数倍かわいいよ」 ちょっと近づいてささやくように告げる。 「…!!!」 耳まで赤くなる花巻さん。 「い、行きましょう!」 ごまかすように俺に背を向けた。 その姿にちょっとクスクスしてしまう。 パン屋は開店直後だというのにそこそこ混んでいる。 「話題になってたもんね」 興奮のあまりため口になる花巻さん。 「だね」 トレーをもってあげてトングを彼女に渡す。 「あ、ありがとうございます。森さんも欲しいのあったら言ってくださいね」 「うん」 一応俺に気をつかって聞くけど、視線はもう店内に向いている。 あぁ、いいにおいだ。 焼き立てのパンのにおいに急に空腹を覚える。 花巻さんは思いのほかてきぱきとパンを選んでいる。 きっとネットで下調べしたんだろうな。 なんか遠足や旅行の前の日の小学生みたいだ、とおもってしまう。 俺もいくつかパンを選んで店を後にした。
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