彼女の部屋

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せっかく焼き立てのパンだし、お昼はこれを食べたい。 俺たちの意見は一致した。 冬だけど、日差しは暖かくいい日寄りだ。 「うちの近くにちょっとした緑地があるんです」 ピクニックできるようなところだという彼女の提案に乗り、 俺たちは散歩がてらそこへ向かう。 そこはそれほど広くないが、ベンチなどもあって近所の人々の憩いの場になっていた。 「あそこのベンチで食べましょう。」 俺たちはベンチに腰かけ、パンと途中で買ったペットボトルを並べた。 「いただきます」 まるでワンパクな子供みたいにおいしそうにパンをほおばる花巻さん。 その様子を見て、俺も自分のパンを口に運ぶ。 「おいしい!」 「うま!」 同時に声を発してしまう。 そして二人で笑いあう。 「はい、食べてみて」 俺は俺のパンを少しちぎって花巻さんに渡す。 「あ、ありがとうございます」 花巻さんは俺のあげたパンの切れ端をリスみたいにハムハムと食べる。 「ほんとだぁ、これもおいしいですね」 すぐに笑顔になる。 そして 「あ、私のも食べてみてください」 そう言って彼女も少しちぎったパンを俺に差し出す。 あげるときには何ともなかったけど、もらう時ってこんなドキドキするの? そう思いながら、俺はパンを受け取り、口に入れた。 「あぁ、おう。うんうまいうまい」 「ね?はずれがないですね」 なんかいいなぁ。 カレカノっぽい。 そんな時間を満喫していると、 さっきまで暖かさをくれてた太陽に陰りが見え始めた。 「あれ?なんか雲行きが怪しいですね」 「だね」 屋根のあるところに移動したほうがよさそうだ。 他の利用者も徐々に荷物を片付け始めている。 最近の天気は異常なほど早く変わってしまう。 ぽつん。 片付け終わったころ丁度空から雨粒が落ち始めた。 どうしよう?コンビニ? いや、遠いなぁ。 あんまり考えてる時間ないな。 俺がそんなことを考えてると—。 「大雨になる前にいきましょう」 「え?」 躊躇なく花巻さんが言った。 いや、これはマジで戸惑ってる場合じゃない。 俺はともかく花巻さんがびしょぬれになるのは避けたい。 俺も瞬時にそう思った。 「すぐそこです。急ぎましょう」 俺は促されるままに、花巻さんについていった。
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