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「ごちそうさま」 「いえ、いつも片付けまで手伝ってもらってありがとう」 花巻さんの部屋でおでんを食べて、片づけた後に少しくつろぐ。 「いつも、お邪魔しちゃってごめんね」 暖かいミルクティーを飲みながら伝える。 まだそんなに来ていない部屋だけど落ち着く。 いや、たぶん花巻さんがいる空間が俺にとって安心できる場所なんだろう。 最近はそう思う。 「いえいえ、私の部屋でよければいつでもどうぞ」 となりに座る花巻さんをちらっと見る。 あ…。 唇が目に入る。 確かに、ちょっと潤いが足りてないかも。 そう言えばこのところ外出することが多いもんな。 「あ、あの…」 しまった、ついつい見惚れていた。 「あ、ごめん」 そう言って俺はゆっくり彼女の唇に手を伸ばす。 少し戸惑っているけど、抵抗する様子も避ける様子もない。 「…唇…」 言いながら人差し指でなぞる。 一瞬びくっとなったけど、 撫でられている猫みたいに目を細めてされるがままになる花巻さん。 「ほんとにカサカサだね、かわいそうに…」 あぁだめだ、このままだとキスしてしまう。 もう俺の視線は花巻さんの唇に吸い寄せられてしまっている。 「あ…えっと…」 花巻さんは少し赤くなって、それでも抵抗しない。 引き寄せられるようにその唇に俺をの重ねる。 ちゅ…。 小さなリップ音に俺の心臓がどんどん早くなる。 さっきまで当たり前のように彼女にキスをしたのに、 キスした瞬間現実味を帯びてきた。 すぐに彼女から距離をとる。 花巻さんは放心状態のまま、(くう)を見ている。 俺はそんな彼女を見ている。 何か…何か言わなきゃ。 そう思って絞り出した言葉は— 「ちょっと潤った?」 情けない。 いや、何言ってんだ。 頭を抱えたくなる。 「あ、え…」 困ったような返答しかできない花巻さん。 でもハッとしたように俺との距離を詰めて、 「ダメ…まだ」 と言って俺を見つめる。 その妖艶な瞳に俺はドキッとする。 でも、変なプライドというか、余裕を見せたくて…。 「ふふ…。そっか」 そう笑いかけた後、彼女を抱き寄せて、 さっきより密に唇を押し当てた。 それでも遠慮して…いやど緊張でかわいい子供みたいなキスしかできなかった。 そして唇を離した瞬間、 「…はぁ」 花巻さんの唇から信じられないような甘い声が漏れた。 ダメだ。 これ以上は…。 そう思った俺はわざと、 ちゅっと音を立ててもう一度キスした後、 「はいおしまい」 とほほ笑んだ。 ちょっと名残惜しそうな花巻さんに、心の中で思う。 “バカ…これ以上したら俺は…花巻さんの全部を奪ってしまう” それだけは避けたい。 もっとゆっくりと時間をかけて、大切にしたい。 ただ臆病なだけかもしれない。 それでも今はその時じゃない。 俺はそう感じていた。 「…あ、ありがとう…」 そう小さく言って唇に触れている花巻さん。 あぁ、最強にかわいい。
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