彼氏の部屋

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彼氏の部屋

「はぁぁあ」 「こら、春木」 「あ、す、スイマセン!」 「(笑)、まぁ気持ちはわからんでもないが」 窓際のデスクで盛大なあくびをした春木君を、鏑木さんがたしなめる。 でも鏑木さんだけじゃない。 俺だって、いやチームのほとんどが春木君の気持ちをわかるだろう。 窓の外にはのどかな春の日差し。 昨日入社式が終わったばかりだが、うちのチームはさほどの忙しさはない。 これはもう睡魔に身を任せたくなる。 「コーヒー淹れますね」 くすくすと笑いながら、花巻さんが立ち上がる。 「俺も手伝うよ」 一緒にコーヒーマシンに向かう。 「あ。ありがとうございます」 コーヒーをおとしながら二人で窓の外を眺める。 「これは春木君じゃなくてもあくび必至だね」 「ですね。あ。フレッシュですねぇ」 ガラス張りの渡り廊下を歩くどう見ても新入社員が見えた。 「ほんとだ」 「そのうちうちのチームにも研修きそうだなぁ」 「あ、花巻さん人見知りだもんね」 「そ、そんなことは…」 そうやって照れてる花巻さん。 今日もかわいい。 「でもうちには面倒見のいいひといっぱいいるから」 そう言って振り向いてオフィスを見渡す。 「ですね」 俺たちは顔を見合わせて笑いあった。 「コーヒーまだっすかぁ?」 春木君の冷やかしにも似た声が響く。 「もう、春木!」 周りのみんなが笑いつつも春木君をたしなめるふりをする。 「あ、すぐ行きます!」 そんなみんなの冷やかしにしごく真面目に花巻さんが答えた。 4月の一日はこんなおだやかな雰囲気で始まる。
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