彼氏の部屋

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お揃いで買ったマグカップを俺が持って帰る。 どうしよう。 まだ来たこともないのに、花巻さんのモノが俺の家にある。 それだけで、自分の部屋の空気や景色が違って見える。 そして冷静になる。 ここに花巻さんのカップがあるってことは、 俺の部屋(ここ)に花巻さんを呼ぶってことだ。 急に心臓が早くなる。 落ち着け…。 落ち着け俺。 何もすぐにってことじゃない。 花巻さんの気持ちを汲んでってことでいいじゃないか。 でも…。 これで花巻さんを俺の部屋に招く理由(こうじつ)もできたってことだ。 そう思ってしまう俺はなんてこざかしいんだろう。 俺の想いとは裏腹に、 やっぱりというべきか、花巻さんは特に変わらなかった。 無理に俺の部屋に来ようともしなかったし、 だからと言ってそれを意識するそぶりも見せない。 これは、天然女子花巻さんのなせるわざだろう。 そわそわしている俺がバカみたいだ。 ちょっといじけ始めたくらいの時間がたったころだった。 「森さんお疲れ様です!」 金曜の仕事終わり。 いつものように一緒に退社する。 「お疲れ」 花巻さんに歩幅を合わせて歩く。 そして気づく。 なんだか花巻さんの様子がおかしい。 そわそわしているというか、俺をちらちら見ている。 「そう言えばGWの、一緒に行く?」 「あ、この前言ってたチームのバーベキューですよね?」 うちのチームはほんとに仲良しだ。 休憩中の話題で、いつの間にかみんなでBBQをすることになった。 参加は自由だが、全員参加になった。 「私、道具はあるんですけど車がなくて、できればご一緒させていただけると嬉しいです。」 まぁ、どんな理由であれ、一緒に行くつもりだったけど。 「了解」 少しの沈黙…。 「あ、あのぉ」 「ん?」 花巻さんがごそごそとバックから何か取り出す。 「何?」 「このお茶、いつも行く雑貨屋の限定品なんですけど」 そう言って小さな包みを俺の前に差し出す。 くれるのかな? 「よ、よかったら、GWの打ち合わせもかねて、その…」 打ち合わせって(笑)、仕事かよ! 「その、この前買ったマグカップで、一緒に飲みたいかなぁって…。」 顔を真っ赤にして、どんどんトーンダウンしていく花巻さん。 それって…。 「うちに来る?」 ってことだよね? 「あ、あのもちろん!森さんの都合が悪ければまた今度でも!」 俺の体が熱くなる。 「いいよ。おいで」 そう言って俺は自然と花巻さんの手を引いて歩いていた。
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