彼女の手料理

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彼女の手料理

「ごちそうさまです」 お茶お飲み終える頃には、夕日も沈んでいた。 カーテンを閉めて部屋の明かりをつける。 「夕飯どうする?」 気分転換に外に食べに行ってもいいだろう。 「あ、あの良ければ何か作りましょうか?」 意外にも花巻さんはにいたいようだ。 「パスタとか、簡単なものしか作れませんけど」 ありがたくその提案を受けることにした。 「パスタの麵あるし、何か使えるものあったら何でも使って」 そう言ってから30分後。 ペペロンチーノ風のパスタと、レタスのサラダが出来上がった。 「チーズもあるし、ワイン開ける?」 と言ったら、花巻さんは嬉しそうに破顔した。 花巻さんは見た目によらずお酒が好きで、強い方だ。 「いただきます」 彼女の手料理に舌鼓を打つ。 誰でもできる。 そう言うけど、そこはやっぱり“彼女の手料理”というパワーアイテム。 味が違う。と感じてしまう。 「どうしました?」 そう聞かれてハッとする。 どうしましたって…なに? 「あ、いや、なんかすごくうれしそうっていうか、にこにこだから」 「え?」 俺そんなに顔に出てた!? いや、はずすぎんだろ! 「いや、ごめん。なんか嬉しくて」 ここは正直に言おう。 もうかっこ悪いとかそんなこと考えないで…。 「え?」 「俺の部屋で彼女が作った料理を食べるのって、幸せだなって」 「…あ」 うわ、これはちょっと狙いすぎたように感じるか? 言ってて恥ずかしい。 でも、それを聞いてじっと俺を見ている花巻さん。 固まっちゃってるのか? 可愛いだろ! 「も、森さんなら手作りしてあげたいって思う女性多いんじゃないでしょうか。そんな人が彼氏なんて、私の方こそ光栄です!」 あたふたしながら急いでパスタを口に運ぶ花巻さん。 ぷっ!っふはは。 思わず吹き出してしまう。 「も。もうなんなんですか?からかってます?」 そんな俺の様子にちょっと膨れている。 「いや、絶対俺のほうが光栄だなって」 「森さんはいつもずるいです!」 「え?」 「だって、きっとその、女性とのお付き合いにも慣れてるでしょうし、 営業でもやっていけるくらいのトーク力やコミュ力があって」 「そんなことないでしょ?春木君見てたら俺なんてまだまだ」 「そ、そう君は特別ですよ!」 「えぇ、それはなんか嫉妬しちゃうな」 「そ、そう言うんじゃなくて!」 ちょっと意地悪だったかな? 「違うんです」 花巻さんは膝の上でぎゅっと手を握る。 「?」 「そういうところです。 そうやっていつも余裕で、 大人で…」 うるんだ瞳が俺を見上げる。 「私ばっかりドキドキして必死になってて」 いやいや、その視線はどう見たって反則でしょ? 艶っぽい瞳に吸い込まれそうだ。 「違う、そんなことないんだよ、花巻さん」 「え?」 「俺だって、花巻さんのことになると全然余裕なくって、 かっこいいことも言えなくてできない。」 そっと彼女の髪をなでる。 「だからつい、思ったこと、衝動が抑えられなくて、 ほんと情けないほど素のままになっちゃう」 そのまま手を滑らせてほほに触れる。 「ほんとはマグカップを買った時からここに誘いたかったし、 チームの人たちにも嫉妬ばっかしちゃって、 毎日反省してばっかだよ」 「そ、そんな」 「今だって、花巻さんの気持ちなんか考えられないくらい、 キスしたい」 そうやって距離を詰めると少し抵抗される。 「…あ、ダメです…ニンニク食べたし」 ふっ。何その言い訳。 「俺だって食べたし」 唇までほんの少しの距離で止められてしまう。 ちょっともう、歯止めなんかきかない。 「いいでしょ?」 「…」 俺はたたみかける。 少しずるいやり方で。 「キスしたい。ね?
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