歓迎会

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「ちょっとお手洗い行ってくるね」 二次会に行く前に和沙がそう声をかけてきた。 「わかった。じゃここで待っとくね」 お店の入り口前にあった喫煙所に入った。 煙草に火をつけて、煙を吐く。 薄曇りのすりガラス越しに人影が動くのだけが見える。 そろそろかなって、喫煙所を出る。 その視線の先に和沙と望月君が見えた。 うつむき加減ではあるが、和沙の表情は悪くない。 そのことにちょっと胸がざわつく。 「あ、たかや。お待たせ」 俺を見つけて笑顔に花が咲く和沙。 それと対照的に眉間にしわが寄る望月君。 一瞬だけ見つめあった男二人の空気を、 和沙は本能で中和する。 「望月君もお手洗いだったみたいで」 「そっか」 「うん」 「花巻さんたちも二次会行くんですか?」 ほぉ、俺はモブってことね。 この時点で俺はわかってしまう。 いや俺じゃなくても気付くだろう。 望月君は和沙を狙っている。 「うん、ね?」 望月君と俺を交互に見る和沙。 「あぁ、もう、みんな移動してるよ。 俺らも行こう」 俺も頑張って大人の対応をする。 和沙と望月君両方を見て誘う。 「えぇ、もうみんな早いなぁ」 和沙は自然と彼から離れて俺の横に立つ。 心の中ではマウントをとっているけど、 表向きは平常心で、 「あんなに和沙のことかわいいとか言っときながら、 割と俺に丸投げだよね」 とおどけて見せた。 「望月君も行くでしょ?」 わざとらしく挑発する。 大人げないなぁ。 「…はい」 俺には随分と鋭い視線を向けるんだねぇ。 でも俺はひそかに思っている。 今はまだ、和沙が望月君の視線に気づいていないけど、 もし気づいたら? 可愛いけど母性本能たっぷりの和沙は、 若くて頼りない感じの望月君(このおとこ)に、 気持ちが揺らぐんじゃないか? そんな不安を胸の奥に押し込めた。
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