1.飼えば?

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1.飼えば?

 ずっと犬を飼ってみたかった。  母が動物嫌いだっため、どんなに頼んでもだめで、とっくに諦めていたのだが、ある日「犬飼いたいなー」「飼えば?」という会話があった。  母の口からOKとも取れる言葉が出たのを、生まれてはじめて聞いた。  この機会を逃す手はない!  家族全員の同意を得て、とある冬の日。  コロコロちいさな子犬が、犬を一度も迎えたことのない我が家にやってきた。  ブリーダーさんから譲ってもらった、負けん気の強そうな顔立ちの小型犬である。血統書はないが、気にしなかった。  膝に乗せると、お腹を登ろうとしたり、降りようとしたり、指を甘噛みしたり、一挙一動が可愛過ぎて頭がどうにかなるかと思った。  ピンクのお腹。犬だ。念願の犬。ずっと飼いたかった犬。憧れの犬。dog、собака、狗、perro、cão、Hund。なんといったって犬!  やる気はじゅうぶん。ぞんぶんにかわいがってやる。  かくして犬と同居して一週間。  家族全員のスリッパはだめになった。  テーブルの脚はぼろぼろになった。  ソファにはでっかい穴があいた。  父は「ほんとうに犬? 小熊じゃないよね?」と訝しんだ。  母は「犬はこんなもんだ」と冷静だった。  事前に読みこんだしつけ本はたちまち本棚の奥にしまわれた。  男の子だもの。やんちゃくらいが可愛いものさ。  言い聞かせて、あちこちにあるおしっこの水溜りを拭いて回った。
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