5.家族の季節

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 あれから転職をした。現在は実家から離れて暮らしている。仕事量も勤務時間も減ったけど、犬の背中に抱きつきたい日はいっぱいある。  家を出るときに母に謝った。主に、私が犬を飼いたいと言ったのにも関わらず自分の都合で離れることについて。 「病気しない程度に、ほどほどに」と母は言った。  犬を逃がした祖父は今年の夏に亡くなった。危篤だと聞いて新幹線に飛び乗ったけれど間に合わなかった。あまりにとつぜんだった。自分でもびっくりするくらい泣いた。今も考えると涙が出てくる。犬は逃がしたけど。  犬がまだ子犬だった頃、犬を見に祖父母揃って泊まりにきた。あまりのやんちゃぶりに「このガキ大将はおまえらの手には余るんじゃないか?」と笑っていた。嬉しそうに我が家のソファで犬を抱っこをする写真がある。まだ6kgくらいしかなかったときの犬。たしかに悪そうな目つきをしている。というかガンを飛ばしている。すでに暴君の片鱗が写っていた。  なつかしいな。ついこないだやってきた気性が荒くて手がつけられなかった子犬は、いつしかまあるい目をした穏やかな犬になった。そういや「昔やんちゃだった男」はじいちゃんと同じだ。
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