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姉は結婚し、弟は来年上京する。家には父と母と犬が残る。いよいよ家族はばらばらだ。でも犬がくる前とは全然違う。
犬は以前のように飼い主に飛びかかることも、他の犬に寄っていくことも、甘噛みすることも少なくなり、散歩中に引っ張る力も弱くなってきた。年なんだなあと感じる。
私にとって犬と暮らした期間はあっという間だった。でも犬にとってはきっと長い年月だっただろう。子供の頃に出会えていたら、同じ速度で季節を歩めたのだろうかと考える。もしもなんてないまま、お別れの日も近づいてくる。
……などとしんみり書いてみたが、犬はまだまだ全然元気だ。怪我もせず、病気もせず、立派に生きている。
今週末は実家に帰ろう。父の好きな焼酎と、母の好きな鯛焼きを買って。犬には新しいボール。好きなおやつも持って行こう。そうそう。犬の好きなものを書いておこう。ジャーキー。ミルク味の骨っこ。ちゅーる。バナナ。人間(とくに年配の方)。よその犬。地面を掘ること。海の潮風。しゃかしゃか鳴る落ち葉。小枝がいい感じの植木。晴れの日。春。秋。家族。
そして一番は散歩。
立派な手足でのしのし歩く。
その姿を家族皆が愛している。
母から、「きょうは、あたたかいので、庭で毛を切った」と写真が送られてきた。さっぱりした犬が、春の陽射しに吹かれている。
私や姉や弟が子どもの頃、母に髪を切ってもらった庭で。
今は犬が笑っている。
正確じゃない。理想通りでもない。
それでいいんだ。
だってなによりも愛しい――君がつくってくれた家族のかたち。
了
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