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犬のおしっこやうんこをうっかり踏むのにも慣れた頃。
母が犬を飼うのに反対していた理由は、昔動物をたくさん飼っていたからだと判明した。飼い過ぎて近所で有名になり、わざわざ家の前に犬が捨にくる人がいるくらい。……笑えない話だ。
そういうわけで、母は「また犬を飼う羽目になるとは」とあまり乗り気でなかったが、バナナやヨーグルトを与えてみてはどれを一番好むか見極めていた。
元来几帳面な父は役所への届出や、動物病院に行く日、ワクチン接種日などを欠かさずカレンダーに丸をつける。
姉は心配性を発揮し、ちょっと吹き出物があるだけで「病院に連れてく」と言いだす。
勉強や部活に忙しく犬どころではなかった弟だけは、しばらく蚊帳の外にいた。
そんな犬の散歩デビューの日。すでに我が家の小さな庭は穴ぼこだらけにして征服されていた。
彼ははじめてのリードに不快感を示したほかは「ようやく領土を広げられるのか」と言わんばかりに堂々と歩きだした。王様の風格だった。
ちょっとくらいビビらないのか、おまえ。外の世界はそんなに甘くないぞ。コースの途中にはレトリバー系っぽい犬(ラッキー君という)を飼っているお宅だってある。
ラッキー君は新入りをじい……っと見てあくびをした。うちの犬は途端にへっぴり腰になって動こうとしなかった。おい、さっきまでの勢いはどうした。行くぞ。まだ三分も歩いていないんだから。だめだ、動かない。目が完全にビビっている。微かな震えがリードに伝わる。
しかたないので、「今日だけだぞ」と言って抱きあげた。内心可愛くって毎日こうでもいいかなと思いつつ。
翌日。
昨日と同じ道を、ラッキー君など見向きもせずスタスタと自分の足で歩いた。飼い主の抱っこなどお呼びでなかった。
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