11、ナショナルツアー

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「豊はMC空回りし過ぎ。落ち着いて。ふつーに自分のファンに向かって喋ればいいんだって。漫才しに来たんじゃないんだよ」  もっともな指摘を受けて、はい、と豊は素直に聞く。実光が言った。 「longingのライブ用アレンジ、めっちゃくちゃよかったなー。エモすぎ。最高。俺ちょっと泣きそうになったもん」  豊は心から同意した。心なしかいつもより葵の歌声が切なげに聞こえて、胸が熱くなった。東京公演は2日間なので、今日はホテルではなく皆自宅に帰る。豊は葵を誘った。 「タクシー行こ」  しかし葵は言いにくそうに、ごめん、と豊に謝った。 「今日もレージのところに帰る。明日のライブにも集中したいから」  そう言われて昨日フラれた事を思い出す。引き留めたかったが自身が葵のノイズになるのは嫌なので、玲司の住所と電話番号だけ聞いて見送った。翌日ドームにあらわれた葵はもう完全復活と言って差し支えなかった。玲司は葵にとって、精神安定剤のような人なのかもしれない。豊は力不足を痛感すると共に、だから自分とは付き合えないと言われたのかな、と考えた。
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