したごころ

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 俺がゴン助に人間の言葉を教えようと思ったきっかけは、先週末SNSの動画を見ていた時に会社の2年先輩、経理部の矢井田依里弥(やいたいりや)さんが極度の犬好きであることを偶然発見したことに始まる。  俺が現在毎朝早起きをし、会社へ足を向かせることが出来るのは矢井田さんに会えるからこそ。  俺に取って彼女の美声は天使のささやき、彼女の容姿は世界三大美女に次ぐ僅差の4番目。彼女の存在こそが辛い業務に耐え得る俺の気力となっているのである。  もちろん給与を得ることは言うまでもないが…。    その彼女がSNSにあげていたのは、彼女が飼っているロングコートチワワとのやり取りの動画。  彼女のSNSの過去を追ってみると彼女はその動画を頻繁にあげていた。  その数多ある動画を観ていた時、俺はピンと来てしまった。これは、彼女とお近づきになるチャンスだと…  彼女の飼っているロングコートチワワの名前は”アンコ”。動画の中で彼女はそのアンコに色々と芸を教え込んでいるのだが、そのアンコ、クセが強いのか?どんくさいのか?なかなか彼女の言うことを聞きはしない。  そこに彼女がイラつくのだが、そのやり取りが可愛くもあり面白くもありで、俺には堪らない。  ただ、それは傍から見ている者が思うことで、彼女にとっては気落ちするくらい残念な事なのは動画から分かってしまう。  そんな事もあるのか、彼女はSNSに上げた動画でも言っていたが、芸をする犬の動画を見ることが日課となっているそうなのである。  と言うことは、俺が彼女と仲良くなるためには何をすべきか?  それは明らかではないだろうか。  と言うことで今回、我が天才雑種犬のゴン助に芸を教えることにしたのだが、どうせならインパクトのあるものがいい。そこで思いついたのが人間の言葉を喋る犬なのである。
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