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作戦決行
俺の所属する第二営業部はフロアーの一番端の窓際に位置する。これは、決して仕事が出来ないからではなく偶々である。そして、彼女、矢井田さんの所属する経理部は同じフロアの階段に近いところにある。
位置的には、端と端ということもあり自分の席から彼女の直視は出来ない。
階段を利用する時も、彼女の席は経理部のカウンターの陰になるため、ご尊顔すら拝見することは出来ない。なので、この交通費等の清算の時が彼女の姿を確実に拝見することが出来る数少ないチャンスの一つなのである。
その為、彼女と数多く接触をする為に普段は頻繁に細かい清算をするのだが、今回はゴン助の習得状況の様子を窺いながらと、清算に要する時間を稼ぐために2週間も清算をせずにズルズルと引っ張っていた。
暫くぶりの清算伝票の提出と言うこともあり、俺は緊張で若干の右手の震えを覚える。俺はそれを抑えつつ伝票を記入し、経理部へと向かう。
激しい心臓の鼓動を隠すように、何気ない装いで彼女の元に清算の伝票を持って行く俺。経理部のカウンター越しに見る彼女は、後ろ姿までも美しい。
「清算お願いします」
「はーい」
彼女はどんなに忙しくても、温和な表情で振り返ってくれる。まるで天使。
「最近、清算してなかったけど、お金大丈夫だったの?」
俺が頻繁に細かく清算する理由を、彼女は俺がお金に困っているからだと思っているらしが、理由は違えど、俺にとっては清算頻度を覚えてくれてること自体が感激。
だからと言って迂闊に勘違いはしない。ただの心配性なのかもしれないのだ。
「忙しくて、後回しになってしまって…。纏めてになってすみません」
仕事の忙しさよりも、”あなた絡みの事情なんですよ”と思いつつ仕事に理由を擦り付ける。
「ちょっと、量が多いから時間かかるけど。後で取りに来る?」
「いえ、今日は忙しくないので待ってます」
それも一つの理由なのです矢井田先輩…。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
そう言うと素早く伝票と領収書を確認するとPCに入力を始める。今がチャンスである。
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