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風に靡く、腰まである絹糸のような黒髪。
擦れ違えば、清楚な花の香りが鼻孔を擽ってくる。
黒いセーラー服の襟とスカートを静かに揺らし歩く彼女から数歩距離を取って振り返れば、野に咲く百合のように凛とした背中が見えた。
有名私立女子高等学校に通う彼女に一目惚れしてから、こうして眺め擦れ違うだけの日々。声を掛ければ少しでも進展するんだろうけど、こちらは普通の公立高校に通う、何の特徴も無い男子高校生、共通の話題になるようなものは無く、こうしてただ眺め見送るだけ。
将を射んと欲せばまず馬を射よというけれども、彼女の友達も同じように高潔で近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
小さくなって行く背中、僕は今日も声を掛けられなかった不甲斐なさに苦笑しつつ息を吐く。下校時にまた彼女の姿を眺め、その芳しい香りを密かに楽しもう。
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