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「うぅ」
私の下で、椅子が呻き声を上げる。それと同時、ぶるぶると震度1のような揺れ。
「あら、椅子は己では動かないものでしてよ」
ノリタケのカップに注がれた紅茶をお気に入りの着物に零さないよう、注意して一口飲む。だけど椅子の震えは段々大きくなってきた。
「仕方ありませんわね」
ゆっくり腰を上げれば、待ってましたとばかりに椅子が頽れた。そんな椅子に、私は残っていた紅茶をかける。
「う、ううっ!」
椅子だったもの――青白い肌をした青年は、ボールギャグに開いた穴から涎を零しつつ、びくびくと体を跳ねさせた。
「やっぱり小型犬は体力がありませんわね。筋肉隆々ではなくて見栄えはいいのですけど」
この子の前に飼っていた大型犬――ボディビルダーをしていたという大型犬は、椅子などの耐久性はあったのですがバラ鞭で一叩きしただけで逃げ出してしまいました。痛みに弱かったのでしょう。
ああ、痛みにも強く、いつ何時でも椅子やテーブルになって下さる犬はいないのでしょうか……
ふ、と放課後であった青年が浮かびました。あの子犬のようでいて、肉食獣のような熱を秘めた瞳を持った。
あの子なら私の理想の犬になってくれるのでは?
白い肌に濃い茶色の髪の毛。私を情熱的に見詰める瞳……
あの子が犬になってくれるなら、私は何でも捧げましょう。
くすりと微笑みひとつ、足元に転がる小型犬を足袋を履いた足でひと蹴りした。
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