犬と呼ばれていいかも

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「もう、酒田君。笑顔、かわいー。うちの犬のヨッチャンみたーい」  一体何という光景なのだ。あのクール美人の倉内彩子が酒田に向かって相好を崩していた。 「くうん。この笑顔は倉内さんだからできるんだ」 「もう。女の人を口説くのがお上手ね」  なんだこの二人の甘い雰囲気は?  これは一体どういうことだ? 「じゃ、放課後に一緒にお茶しましょう」 「わかった。じゃあ、また後で」  酒田は倉内彩子から離れ、「どうだ」と言わんばかりの表情で俺の前に戻って来た。 「見たか?」 「今のが犬みたいな生き方か?」 「いや。犬みたいな生き方ではなくてな」 「犬みたいに振る舞えば、彼女ができるのか!? ええっ!? どうなんだ!」  俺は酒田の肩をゆすって問い詰めた。 「う、うおおお。そ、そうだ。でもちょっとお前は言葉が足り……」 「わかった。俺もちょっと同じことをやってくる」  俺はちょうど近くを通りかかった推定Gカップの彼女である千葉美紀に駆け寄った――手を足のようにして、犬のように、四つ足で! 「わわん、千葉さん。こんにちワンー!」 「ひっ? ひいっ?」  俺の前から逃げる千葉美紀。  ちえっ。犬になったつもりがまだ足りないのかい。  俺は口を開け、舌を出し、ハッハッしながら千葉美紀を追いかけた。  遠くから俺を呼ぶ酒田の声が聴こえてきた。 「ば、ばかっ。四つ足で近づいたらケダモノみたいじゃねえか」  しかし俺は酒田の言葉を無視して犬になりきった。  千葉美紀の悲鳴を聞いて集まってきた教師たちが俺を取り押さえた。 「な、なんだこの発情した犬みたいなヤツは?」  教師たちに取り押さえられた俺の前に酒田が来て言った。 「犬みたいな生き方しろじゃなく、犬みたいな顔しろって……」 「ど、どういう意味だそりゃ?」 「犬は、これから頭を撫でられるぞ、わくわくする気持ちを隠さないから、嬉しそうに近寄って来るんだ。わくわくする気持ちが高まると、夢をかなえようって感じの素敵な笑顔になれる。それを気持ち悪いと思うヤツがいるかよ」 「なるほど」  犬と呼ばれたい気持ちとはそういうことか。 「今度こそわかった」 「う、うそだ。落ち着け」  俺は俺を取り押さえる教師に、わくわくしてる顔を見せた。  教師の一人が言った。 「よーし、よし。期待通り、きつーく説教してやるからな」 「おい? 酒田よ。犬みたいな笑顔見せれば許されるものじゃないのか?」 「犬ならしつけは大事だな。しっかり叱られて来い」  犬のような声で「ぎゃふん」って言葉が俺の口から出たのであった。 <終わり>
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