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「あれれ、私は一体。」
草原で横たわってきた女の子が目を覚ました。ゆっくりと体を起こしてどこか傷はないか、状態変化していないかを入念に確認する。
細いがしなやかに筋肉のついた腕。ただ細いだけの足とは一線を越える均整のとれた脚。絹のように流れる美しく長い髪は少しもその輝きを鈍らせてはいない。
年の頃は16歳。生まれてからついこの間まで生まれた村から出たことがなかった田舎育ち純粋培養の女の子。
名前はフェーン。
格闘家見習いとして、魔物討伐のパーティーに所属していた。
物心ついた時から家業の農家を手伝い、馬鹿力と類まれな身のこなしのセンスで見習いながらに着々と冒険者ランクを上げている。
背は小さいもののメリハリのついた身体は年よりも大人に見えるが、内面がまだまだお子様のためそのアンバランスさが村中の男を虜にした所以でもある。実際に村を出る時には大の大人が何人も泣いて、付いていくと言って聞かなかった。
特にダメージを受けたわけではないことを認識すると大きく伸びをした。草原を駆け抜ける清々しい空気をその小さい体にめいっぱい吸い込んだ。吸い込んでから気が付いた。
「私がいたのは確か、洞窟の中だったはず。」
洞窟の中にこんな清々しい空気は流れていない。息苦しく、土埃のする湿った空気だ。じゃあ、何故今ここにいるのだろうか。
「フェーン、目が覚めたか?」
フェーンの傍に座っていた青年が声を掛ける。年の頃は成人してまだまもない若者に見えるが、実年齢は不明。名前はギーマ。精悍な顔つきで、黙っていれば老若男女問わず人だかりができ持てはやされることだろう。しかし今は草原。この二人以外に人気はない。
フェーンの手を取り優しく包み込むように握ると、まるで力がかかっていないかのようにふんわりと露出している石の上に座らせた。
「ギーマ様。私たちは魔物を倒していましたよね?それが何故こんなところに?」
ギーマがあまりにも落ち着いているので、まるでさも当然のようにされるがままだったフェーンが問い質す。その間もギーマはフェーンに付いた葉っぱや土を丁寧に取り払い着衣の乱れを正している。癖のついた髪型もどこから出したのか分からない高級そうな櫛で梳いている。
「どうやら思ったよりも手ごわい相手だったみたいで魔法で飛ばされた。」
フェーンの身だしなみを一通り整えて満足したギーマが答えた。うーんと顎に手を添えて全身像を見てから、前髪の一房の位置が気に入らなかったらしくまた手直しを入れた。
「えーっ!そういえばヴァルト様とメンス様の姿が見えません。お二人はどちらに?」
魔力を持った獣だから魔物。そんなことは子どもでも知っている。魔力で強化された力で人間たちの脅威となっていたる。しかし、魔法を使えるとなると話は別だ。上級魔物や、魔人と呼ばれる一部の者だけが使えることはそれもまた一部の人間しか知らなかったことである。
それを知っていたギーマにも驚きではあるが、一緒にいたはずの残りのパーティーのメンバーの安否を気遣う声の方が先に出てしまった。
「憶測だが、空間転移魔法だ。俺たちをバラバラの所に飛ばして戦力を分散しようとしたみたいだな。」
驚き顔のフェーンも可愛いなと頭を撫でながらギーマは言う。話している内容は結構切羽詰まっているのだが、行動が伴っていない。むしろ二人きりになれて喜んでいるようにも見える。
「バラバラに、そんな。でもそうしたら何故ギーマ様と私は同じ場所に飛ばされたのでしょうか?」
ギーマに頭を撫でられつつも険しい顔をして考えるフェーン。
「・・・運命かな?」
ギーマがボソッと言う。真実はギーマしか知らないが、フェーンに伝えたところで理解はできないだろうとはぐらかす。
「はっ、私の力がまだまだひよっこだったから分散させる必要がなかったってことなのでしょうか!そうとしか考えられません!」
ギーマの言葉が聞こえていなかったのか、聞こえていて頭の処理能力が足りなかったのか、自分の考えに集中するせいで他の声が耳に入らなかったのか、フェーンが叫ぶ。
「いや、あの。」
自分で言ったことだが気恥ずかしさが出て耳が少し赤くなるギーマだが、叫ぶフェーンには見えていない。
「魔物からも一目置かれるギーマ様の足元にはまだまだ及ばない私ですが、今に強くなって見せます!待っていてくださいね!」
自己完結が済んで満足したフェーンに、庇護欲掻き立てられまくったギーマは「あ、はい。」と返すしかない。可愛いと気恥ずかしさと複雑な感情が入り乱れていた。
「さあ、ヴェルト様とメンス様を探しに行きましょう!」
石からストンと地面に降り立ってどこへ行くのか定まっていないが指を差して明後日の方向を向いた。
「・・・別にあの二人は要らないんだけどな。」
自分も石から起き上がり、ゆっくりと伸びをしながらギーマが言った。
「何か言いましたか?ギーマ様?」
「いや、何にも。」
こうして、一介の魔法使いと、一介の格闘家見習いの旅は始まった。
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