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「いや、違う、その、これは……」  澪は、僕の言葉がまるで耳に届いていないかのように、表情を動かさないままつかつかと歩いてきた。  やさしい恋人の、いつになく不気味な姿。僕は、魔法にかかったように硬直していた。  やがて、僕らのいるベッドの前で立ちどまった澪が、謎めいた微笑を浮かべて。 「晶良、言ってたよね。ギターと女の子には一途なんだって」  澪はそこで一度言葉を切ると、かがんで、床に置かれたレスポールを手に取った。 「わたし、信じてたのになあ」  今まで何度も僕の体をなぞった澪の両手が、年季の入ったネックを力強く握りしめる。美しい黄金色のボディが、蛍光灯の光を受けてきらめいた。 「ま、待っ……」  言い終わらないうちに、左のこめかみに強い衝撃を受けた。 「ぐがはっ!」  最愛の恋人の手にした最愛のギターに、僕はノックアウトされた。  ベッドから叩き落とされた僕は、そのまま力なく冷たい床に転がった。口の中で、血の味がにじむ。  薄れていく意識の中、大慌てで部屋着を身に纏いながら外へ飛び出す菜乃花ちゃんの姿が見えた。どうか、彼女の命が無事でありますように。  破砕されたレスポールが、無残な姿で床に捨て置かれていた。  ——翌日、僕は久しぶりにギターを買いに行った。
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