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「なんでこんなことになっちまったんだよ」  菜乃花ちゃんと出会ってから二週間ほど経ったある日、僕はスタジオ練習の帰りにバンドメンバーの一人と飲んでいた。 「まあ、今回はほんとにドンマイだったな」  僕のバンドのボーカルである彼は、最近彼女と別れたということで落ち込んでいた。  経緯としては、サークル内の他の女の子が口実をつけて彼の家に泊まったのが彼女にバレて、というもの。要するに浮気であり、基本的には彼の自業自得だ。とはいえ、僕としても友人である彼の気持ちを想像してやれないこともないので、正論で詰めることはしない。 「なんでバレたの?」   「それが、運悪く現場を見られててさ」  彼の話を要約するとこうだ。浮気相手と一緒に家に入る場面を、たまたま通りがかった別の女の子に目撃された。目撃者したその子は、彼の恋人の親友。彼の過ちはすぐさま恋人に密告され、翌日には審問が行われたという。 「黙っておいてくれてもよかったと思うんだけどなあ」    反省しているのか不運を嘆いているだけなのかよくわからない彼の話をビールで流し込みながら、僕は考えた。  同じコミュニティ内での恋愛はハイリスクだ。どんなところから噂が出回るかわからないし、一度付き合って別れた相手がいるとそのコミュニティ内でお互いにやりづらくなってしまう。  そういう意味で、コミュニティ外での恋愛は都合が良いと思う。離れたところにいるから、こういったトラブルや誤解を生まず平穏に関係を続けやすいのだ。失恋した友人を慰めながらこんなことを考えるのは最低だと思いつつ、自分の恵まれた現状に感謝を捧げた。もちろん、口にはしない。  僕は、彼の肩をぽんぽんと叩いて言った。 「今日は僕が奢るよ。心行くまで飲もうぜ」  彼は何も言わず、ジョッキに半分ほど残っていたハイボールをぐびっと飲み干した。
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