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 人生で一番楽しいことはライブ、二番目はセックスで、三番目が、「これは二日酔いをするに違いない」と確信しながら酒を飲み続けることだと思う。  泥酔とは幸せの前借りであって、二日酔いは失敗でも不幸でもないのだ。翌日後悔するとわかっていても酒を浴びたい日というものが酒飲みにはある。  というわけで僕は、失恋した友達に付き合って自分の体の体積以上とも思える量の酒を飲み、べろべろのヘロヘロになっていた。  友人と別れて一人で駅のホームに立ち、終電を待つ。十二月の夜風に震え、ふーふーと息を吐きながら電車を待っていると、彼女からのLINEが来た。 【晶良(あきら)〜】 【はーい】 【今日バイトめっちゃ頑張ったから褒めて】  「えらい!」というセリフつきの動物のスタンプを送る。 【元気出た?】 【出た!】 【よかった!】 【晶良は今家?】 【いや、飲みの帰りででんさゃ待ってる。めちゃくちゃ寒いわるあ】  送信してから気づく。誤字がひどい。肝臓が仕留め損ねたアルコールが脳へと回り、言語能力を著しく低下させている。 【誤字りすぎw あと何分で電車来るの?】 【5分】 【じゃあ余裕じゃん】 【むり、こごえじにさう】 【風邪ひかないでよー】 【菜乃花ちゃんが温めてくれる?】  酔いに任せて大胆なメッセージを送ると、彼女は短く【??】とだけ返してきた。照れてるんだろうな。紅潮した彼女の顔を想像して、体温が一オクターブ上がる。  それから少しやりとりした後、彼女が【明日もバイト早番だから寝るね】と送ってきたので、【おやすみ。むりひないでね】と返した。  電車で席に座るなり、僕は夢の中に沈んだ。
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