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そんなことを懐かしく思い出していた。二人とも、もう六十歳になっていた。
「あなた、私たち結婚四十周年ね」
「いや、そんな若くて美しい顔で言われても実感が湧かないよ」
そこで、騎士団長が血相を変えて、部屋に来た。
「アルフレッド王、革命です。革命軍がそこまで来ています。お逃げください」
騎士団長が彩人、今は、アルフレッドに詰め寄った。王妃のフランソワ(日本名:彩)が、国王に肩を寄せる。
「あなた、どうにかならないの? 何があっても、守ってくれるんでしょ」
城から火の手が上がり、ドアから煙が少し入ってくる。廊下からは逃げられない。
「新しいボードゲームは、部屋に置いたままだ。麗亜ちゃんや、息子の翔や、翔のお嫁さんの沙羅ちゃんが、助けてくれないかなぁ」
夫婦って似てくる。彩人は、彩のノリがすっかりうつってしまって、危険を顧みずゲームを楽しんでいる。
彩人は、ぼやいた。
「麗亜ちゃんは、この前、僕らを助けようとして、動物園のサル山に飛ばされた。もう二度と助けに来ないって言ってたからなぁ」と。
仕方ない。奥の手を出すか。
彩人は、引き出しからゲーム盤を出した。向こうの世界でゲームをやる前にコピーしたものをポケットに入れていた。
こちらに転生した時に、なんと、ポケットに入ったままだった。
書いてあることが現実に起きるように、宮廷魔術師に魔法をかけてもらい、二人のコマをあるべき場所に置いたものだ。
「陛下、何としても、私がお助けいたします。こちらへ」
そう叫ぶ騎士団長に、彩人は、サイコロを持たせた。
「これを振って、テーブルの上に落としてくれ」
「はっ」
騎士団長のコマをサイコロの目の通りに動かす。二人と同じ場所だ。
━━他のプレーヤーが3の目を出すまで異世界に飛ばされる。
そして、騎士団長が消えた。
あれ? 今、騎士団長は逃げる手段があるかのように言っていた。従うんだったと彩人が冷静になって考えた時には遅かった。
ーーー
「なんで、彩人はこんな時に冷静なの? テンション下がる〜。一緒のノリで楽しもうよ」
何かある度に、何度もそう言われた。彩を喜ばせるために同じテンションで反応するように心がけてきた。
ーーー
結婚生活が長くなり、すっかり彩と同じ思考回路になってしまったと、彩人は、肩を落とした。
彩のお母さんがお盆を落としてしまわないように座らせた、あの時の冷静さが懐かしかった。
「アルフレッド王はどこだ!」
「フランソワ王妃はどこだ!」
遠くで誰かの声がする。
「あなた、体が」
フランソワがそう言って、自分の手が透けていくのを眺めていた。
次の瞬間、自宅に戻っていた。ゲーム盤の前には、孫の祐季がいて、その横に3の目のサイコロがあった。
「あのね、大きな剣を持ったおじちゃんが、これを振って転がせって言ったの。そのおじちゃんは、消えちゃったけど」
「そうか、そうか」
そう言って彩人は、ゲーム盤をしまった。続きをしなければ、何も起きないはずだ。孫を危険に晒すわけにはいかない。
次の日、彩人が目を覚ますと、ベッドの横で彩がゲーム盤を広げていた。
「さあ、続きをするわよ」
「やめろ!」
止める間もなくサイコロは転がされ、彩が消えた。
了
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