不思議なボードゲーム

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   次の日曜日。彩人は彩の部屋にいた。 「これ、誕生日プレゼント。不思議な体験ができるゲーム」 「ありがとう。彩人(あやと)、開けていい?」  彩人は、微笑んだ。 「もちろん」  包装を解くと、彩の顔がパッと明るくなった。 「ボードゲームだ! 早速、やってみようよ」    彩が、上目遣いでニマニマしながら、彩人の顔を下から覗き込んだ。  彩人は、顔が熱くなるのを感じて、何も言えなくなった。  新品なのに古めかしく、まるで古い地図のようなゲーム盤を、思考が停止した状態で、彩人は眺めていた。  そして、謎謎の店内でのことを思い出した。  店主の最後の言葉が頭の中で、反響する。 ━━ 一回やり遂げられるかどうか? ━━ 誰かがゴールできればいい?  そんな得体の知れないものをやってもいいのだろうか。あれほどワクワクしていたのに、いざやるとなると、彩人の胸の中で、もやもやしたものが広がっていく。 「私が先でいい?」  目をキラキラさせ、上目遣いで聞いてくる彩。彩人は、思わずうなずいた。  彩の手を離れたサイコロが転がり五の目が出た。  彩が、「一、ニ、三、四、五」と音符のついた声を出しながらコマを進める。  止まったマスに書いてある文字を、彩が指でなぞりながら、読んだ。 「えーっと、他のプレーヤーが、一か六の目を出すまで、異世界に転生する。それまで休みで、サイコロを振れない。にゃっ⁉︎ 」  彩の体はだんだん薄くなり透明になっていく。彩は、自分の手が透けていくのを確認すると叫んだ。 「三年はサイコロを振らないでね」  そして、彩の姿が消えた。  彩人の耳の中でさっきの彩の言葉がこだまする。彩は、異世界を楽しむには三年はかかると思ったのだろう。三年も留守にするつもりなんて彩らしい。  彩人は、そっと胸の内で微笑んだ。  そういえば、「にゃっ」か。  猫好きの彩は、何か驚くことがあると、「にゃっ」とか、「にゃあ」と言うのが口癖だったな。    三年かぁ。    ひとりだけ残された部屋には、時計の音だけがチッチッチッと響いている。  目を瞑って、耳を澄ませても彩の声は聞こえない……そんなつもりじゃなかった。二人で不思議体験をしたかった。なのに、彩人は、部屋にひとり、取り残された。
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