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序章
嗚呼、明日が来なければいい。
布団の中で、どれほど切に願ったかしれない。決して、不幸なわけではない。むしろ恵まれている。優しい両親がいて、ただ先に生まれただけの己を「にい」と呼び慕ってくれる可愛い弟。親しい友だちだっている。誰にも虐げられていないし、健康そのもの。でも、朝が来ると密かに絶望する。
恵まれているのに、どこかここではない所へ行ってしまいたい。自分が自分でないものになってしまいたい。漠然とした不安と、子どもには似つかわしくないほどの虚しさを抱えながらも、誰にも言えないでいる。
だから、明日が来なければいいと乞い願った。乞い願ったところで、朝を拒んだとて、お構いなしに日は昇った。
願っても、拒んでも、朝が、明日が来るのならば、己が背を向けて逃げてしまえ。
そうして、指先から凍てつくような寒い寒い日。しんしんと雪が降り続き、「明日」から逃げ出すこの足音さえも雪が食む、とても静かな日に、そっと逃げ出した。
辿り着いたのは、宵の街。
決して朝の来ない、宵の街。日は昇らない。常に宵の中にある街。
もう2度と、朝を迎えて絶望することはない。
初めて息ができた気がした。
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