気紛れに優しく

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 二人でこそこそ話をしていると彼女がバッグからスマホを取り出した。蝶はそろそろ帰ろうとしているようだ。 (17!) 「あ、それ。もしかして大谷?」  もしかしても何も調べたんだから間違いない。俺の演技はわざとらしくなかっただろうか。 「オオタニ?」  二宮が頓狂な声を上げる。彼女は一瞬目を丸めたがすぐに整った笑顔に戻って、手元のスマホをくるりとひっくり返した。 「そうです。よく分かりましたね」  いつも遠目に見ていたそれには『17』の数字と共に『LAA』の文字が並んでいた。『Los Angeles Angels』。間違いない。 (あの付箋がなかったら確信は持てなかったけどな)  俺は彼女の顔に視線を戻す。光が増した瞳の先にはあの若い男の顔が見えているに違いない。姿の見えないライバルに嫉妬心が湧き上がる。 「好きなの?」 「ええ」  彼女は間髪入れずに頷いた。長めの前髪がさらりと輪郭を撫でる。 (捕まえたい)  この綺麗な(かのじょ)を。 (宣戦布告だ)  俺はにっこりと微笑んだ。 「俺も好きなんだ。今度ゆっくり話をしよう」 「え?」 「じゃ、交流楽しんでいってね、七瀬さん」  それだけ告げてその場を後にする。意味も分からずきょとんと口を半開きにした顔はなかなか可愛かった。
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