気紛れに優しく

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「お前なぁ」 「松沢さん、怒ると怖いからさ。間違えないでくれよ」  クライアントの松沢さんとは面識がある。前回も二宮のフォローに入ったときに何度か一緒に仕事をしたのだが、神経質で感情の波が激しい人だった。 「面倒な相手なんだから、お前がしっかりしろよな」 「いや、全くもってその通り。頼むよ」  二宮は顔の前で両手を合わせた。俺はテーブル上のノートパソコンを鞄に突っ込んで「貸しイチ」と人差し指を突き立てる。貸しとは言うが禄に返して貰えないのだから、今度は借用書でも書かせなきゃならない。ちっとも可愛くないヒゲ面は合わせた手の横から片目を開け、俺の方を見ながら言う。 「持つべきものは出来る同僚だな。サンキュ」 「……ったく」
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