気紛れに優しく

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 二宮はパカンと缶を開けてコーヒーを呷り、言葉を続ける。 「それなりに集まるんだから失敗はねぇよ。珍しさもあるだろうし。大成功するかって言われればそれは保証できねぇけど」  アハハと笑う二宮を横目に「失敗はないか」と独り言ちる。 「俺たちがブーストをかけるには丁度良いだろ」  コロナ禍で様々な業種が失速したが、取り分けエンタメは贅沢と糾弾され俺たち広告業界はもろにその煽りを食らった。得意先を含めた多くの企業が広告関連に割く予算を削り、仕事が激減してしまったのだ。さらに長く続いた在宅でのリモートワークはセールスとして外勤をしていた俺の精神を蝕んだ。パソコンに向かっているだけの仕事が果たして社会の、いや俺自身の何の役に立っているのかと悩んだこともある。このヒゲだってただの無精髭になっていたのだ。(勿論オンライン会議のときにはきちんと整えたけれども)。しかしコロナで持ちきりだったニュースも日に日に数を減らし、日本全体が以前までの日常を取り戻してきたことで、俺たちにも外勤の日常が戻ってきた。徐々にではあるが仕事も増え、また仕事を取りに行くことができるようになってきている。  そんな中での異業種交流会開催である。
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