7 犬は、気になることがあった

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

7 犬は、気になることがあった

 どうも。犬です。  随分長く生きた犬です。おじいちゃん犬なんです。おじいちゃんなので、ベッドから起き上がれず申し訳ない。寝転んだまま、失礼しますよ。  ワタクシ、そこに座っている彼と一緒にこの家にやってきました。あの子が小さい頃からよく知ってます。随分大きくなりましたが、まだまだ甘えん坊でしてねぇ。こんなおじいちゃんに甘えて、たくさん撫でてくれるんです。良い子でしょう。  あの子とは、たくさんの思い出があります。たとえば今寝ているこのベッドは、昔は一緒に使って寝たりもしていました。今は、あの子もうんと大きくなったので、もう出来ませんけどねぇ。くたびれてしまったから、新しいのを買おうとも言ってくれましたが、ワタクシはこれが好きなんです。また新しい子がこの家に来たら、ぜひ、その子に買ってあげてくださいな。  こんなおじいちゃんの、心残りを聞いてくれますか。ワタクシ、最近あの子がずっと、ワタクシのそばについてくれてるのをよく知っています。ワタクシももう長くないですからねぇ。最期を見送ってくれるというのなら、こんなに嬉しいことはありません。  けれど、あの子がもうずっと、笑ってくれていないのが悲しいんです。あんなしょぼくれた顔を、冥土の土産にでもさせるつもりなんでしょうか。素敵な思い出と一緒に、ゆっくり眠りたいなぁ、なんて思ってるんですが、難しいでしょうか。  ワタクシ、小さい頃のあの子が笑っている思い出ならたくさん持ってますが、大人になってからは、あまり見ていないんですよ。人間は大人になると、笑うのが難しいですか?そんなこと、ないですよねぇ。  ねえ、おじいちゃんは寂しいですよ。ワタクシだって、キミが大好きで、本当は離れたくなんかないですよ。でも、それは叶いません。  それに、ずっとそんな顔をしているわけにもいかないでしょう?たくさんたくさん、ワタクシは幸せを貰いました。もう十分すぎるほど貰ってきましたよ。  ワタクシは、何かキミに返せたでしょうか?ワタクシがもし、キミに何かを渡せたのなら、それがキミの良き思い出になっているならどうか、笑って。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!