2 犬は、あるシェルターにいた

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2 犬は、あるシェルターにいた

 こんにちは。私は犬です。  昔の私は、人と遊ぶのが好きでした。ボールやオモチャを投げてもらうのが、特に好きでした。……昔のことです。  体が大きく力も強いので、人間は私を持て余していたみたいですね。気がつけば、ここにいました。  ここの人は優しいですよ。ご飯は、私の近くも遠くもないところに置いてくれて、私を一匹にしてくれます。人間もきっと、私のことが怖いでしょうから、それくらいがちょうど良いんです。人間は、私みたいに牙も爪も持っていないでしょう?羊のように身を守る毛も少ないですし……無理もないですよ。  あなたは怖がらないんですね。でも、手を伸ばして私に触ろうとしないのは、懸命だと思います。私もまだ力加減もわかりませんから、怪我をしたくないでしょう。あなたは人間の中でも特に小柄で、特に弱そうですし。  ……?怒ってなんかいませんよ、私。そう見えましたか?大丈夫、怒っていませんよ、本当です。人間を嫌ってるわけでもないんです。信じてくれますかね。  私ね、覚えてるんです。私と遊んでくれた人たちの、私を撫でるときの手のあたたかさ。忘れられるもんですか。とっても嬉しかったんですよ、あれ。まだ思い出して、夢に見るくらいには。  ただ、ね。特にあなたのような、小さな人間を、私は怖がらせてしまうから。ああ、私、怖かったんです。とっても。鼻先を近づけて、また人間を確かめてもいいのかわからなかった。私の近くで迷う手に、触ってもいいのか、教えてほしかったんです。  ……怖くは、ないですか。
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